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精霊を宿す少年  作者: 鷹盆太郎
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第二話 旅行の前夜

「ただいまー!」

「あら、お帰りなさい。意外と早かったのね」

ただいまと叫びながら勢い良く玄関の扉を開けると、そこには母さんが立っていた。

「うん、明日の旅行の準備をしないとね!」

「そうね。でもまずは手洗いとうがいよー」

小学校何年生の会話だよ。俺はもうすぐ高校2年なんだぞ。

まあ、仕方ない。俺はどっちかって言うと、シスコンよりもマザコンだからな。



言われた通り、手洗いとうがいをした後、リビングに行くと父さんがソファーに座っていた。

「おお、帰ってたのか、陸。いつの間に帰ってきてたんだ?メールぐらい送れよー」

「今帰ってきたところだよ。ごめん完全に忘れてた」

父さんは相変わらずなんか他の人よりもワンテンポ遅れている気がする。

まあ、10年以上も一緒に暮らしてきたからもう慣れているけどな。

そういえば、妹の姿が見えないな〜。

「ねえ、父さん。唯はどこにいるの?」

「ん? ああ、唯は今は2階にいるよ」

そうか、2階にいるのか。そりゃそうだよな。

きっとあいつは明日の旅行の準備でもしているんだろう。

なんたって、あいつは主役だからな。

あ、もしかして、何かサプライズをするためのものでも作っているのだろうか?

今まで支えてくれてありがとう、みたいな?

そうか、それなら、あいつに声をかけるのはやめておこう。忙しいだろうしな。



そんなことを考えていると、階段の方から人が降りてくる音がした。

きっと唯だろう。俺に会うためにわざわざ作業を中断してきたのであろう。

なんて兄思いな妹なんだ!

「あれ? お兄ちゃん帰ってたの?」

振り返るとそこには、眼鏡をかけたツインテールの少女がいた。

そう、彼女こそが俺の妹の針原唯(しんばらゆい)だ。

しかし、なんか予想してたのと違うぞ。いや、落ち着け。ここは慎重に返事するんだ。

「唯、別に俺のために作業を中断しなくてもいいんだからねっ!」

なんか、ツンデレみたいになってしまった。うわー、これ絶対に唯に引かれてるわー。

恐る恐る唯の顔を見てみた。すると、なぜか首を傾げてこちらを見ていた。

「作業? お兄ちゃん何言ってんの? 大丈夫?」

妹に心配される兄とか情けない......

「まあ、いいや。あと、お兄ちゃんに言わないといけないことがあるんだけど......」

なんだ? 急にどうしたんだ? いや、この状況で妹が口にすることは決まっている。

兄貴〜、さっきの発言って何? まじ引くわー、とかでしょ。

「でさ〜、そのー、言わなきゃならないことっていうのはね......」

「お願いだから、言わないでー! お兄ちゃんを責めないでー!」

「お兄ちゃんさっきから何言ってんの?」

あれ? 違ったか?

「実は私......明日の旅行行けなくなったの......」

「……え?」



最初は意味がわからなかった。突然、頭の中が真っ白になった。

しかし、その言葉の意味を理解していく内に、自然と心の中がムカムカしてきた。

「唯、それ本気で言ってんのか?」

俺は静かな声で尋ねた。

「うん......本気だよ?」

「なんでだ?」

苛立ちを感じ始めた。

「......友達とみんなで温泉とかに行くから」

「お前は、旅行と温泉、どっちの方が行きたいんだ?」

次第と声が大きくなっていく。

「......温泉」

「なんで、お前は家族で旅行に行くことを選ばないんだ!」

自分でも信じられないほどの大声が出た。

「せっかく、お前が生守に合格したから、家族みんなで旅行に行こうってなったんだぞ! 1ヶ月以上も前から飛行機やホテルの予約を取って、今日までずっと準備してきたんだぞ! 家族みんなで旅行なんて滅多にないから、ずっと楽しみにしてたんだぞ! それなのに、お前は今日になって友達との温泉を優先するって言うとか...... ほんとにありえない! なんでそっちを優先するの!? なんでなの!? なあ、答えろよ! なあ! なんで......なんでなんだよ......」

俺の目から涙が溢れていた。なんでだ。怒っているはずなのになんで......。

「お兄ちゃん......」

唯はただそれだけつぶやいた。



ふと、俺は気がつき、振り返った。

「ねえ! 母さんと父さんもなんか言ってよ!」

2人なら、なんとかして唯を説得してくれるはず、そう思った。

だが、

「父さんたちは、唯の好きなようにしていいと思ってる」

「母さんも同じ考えよ」

その予想は見事に外れてしまった。

え? 嘘だろ? なんで、反対しないんだ? 2人は唯と一緒に旅行に行きたくないのか?

「どうしてだよ? 2人ともこの旅行を楽しみにしてたじゃないか! なのに、なんで主役が抜けることに対して反対しないんだよ!」

「......」

「......」

2人は何も答えず、ただじっとしていた。

「なんか答えてよ! ねえ!」

「お兄ちゃん!」

背中の方で俺を呼ぶ唯の声が聞こえた。

「なんだよ!」

俺はそういいながら振り返ると、唯は眼鏡を外していた。

「文句があるなら私の目を見てはっきり言ってよ!」

俺は言われた通り、唯の目を見て言おうとした。

言おうとした。

だが、言えなかった。

唯の目を見ている内に、怒りの感情が俺から消え、

なんだか文句を言うのがめんどくさくなってきたのだ。



なぜだろうか。

前にも、こんなことがあった。

唯と口喧嘩をした時に最後は唯の目を見て言おうとしたら、

突然、言う気がなくなってきたのだ。

そして、いつも俺はその時に、

唯のきれいな水色の目が一瞬だけ赤色に染まる。

いや、染まったそうな気がする。

まあ、たぶん、気のせいだろうが。



「私は友達と温泉に行くから旅行に行けない、いいね?」

俺は納得していなかったがこう答えるしかなかった。

「......はい」



その後、俺は旅行の準備を終わらせた後、さっさと布団の中に潜り込んだ。

旅行のことを考えるとウキウキして眠れないと思っていたが、

先ほどの言い争いで予想以上に疲れており、俺はすぐに眠りにつくことができた。




こうして、俺の最後の平和な日は終わりを迎えたのだった。

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