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ーバグー

毎日、何の変哲もない、毎日。

起きて、ご飯を食べて。

支度をして、仕事に行って。

毎日が、そのルーチンワークで過ぎていって。

いつか、好きな人ができて。

家庭を持って。

そのうち、何かのことで、死んで。

そんな一生だと、漠然と思っていた。


変化が起きたのは、昨日の朝。

いつも通り、目覚まし代わりにつけている壁掛けテレビのニュースだった。

『……が、発見されました。警察の発表によると、自動販売機の前で、立ったままで……』

ぼやっとした頭に、そんなニュースが入ってくる。

『……目撃者の話では、販売機に手をかざしたところで……』

まぁ、変わったニュースだと思った程度だ。

変なニュースなんて、月に何回かは、ある。

誰かが、何かをした、とか、そんな内容よりも難しい、という程度の変なニュースのことだけれど。

『次は、天気予報です』

ほら、どんな内容だって、時間通りに過ぎるじゃないか。

「もっと、個人に関係のある内容だけ抽出すればいいのに」

そんなことを呟いて、ベッドから出た。

今日の朝ごはんはトーストとベーコンエッグ、牛乳。

希望のメニューを壁のディスプレイに表示して手をかざす。

『その内容ですと、本日の体調では栄養が偏ります。サラダを一品、追加します』

音声が流れ、メニューが一つ、勝手に追加された。

「余計なことはしなくていい」

そう言って、キャンセルのボタンを押す。

『了解しました、五分、お待ちください』

そう言って、脇のカウンターがカウントダウンの表示を始めた。

調理が済むまで、身支度を整える。顔を洗って、着替えて。

準備をしている途中で、電子音が鳴り、壁にあいたポケットから、皿に載った朝食が出てきた。

それとは別に、もう一つ、電子音が鳴る。

「呼び出しか……これを食べたら、出かけるか……」


「おはようございます」

近所の人に声をかけて、自転車を走らせる。

時間は八時過ぎ。この時間に出ている人は、体操をしている人か、犬の散歩か。

妙に人が少ないと思ったら、今日は休日か。

近所で何か集まりでもあるのだろう、ジャージを着た数人が、通り沿いの公園に集まっていた。

空気は今日もきれい。空は濁りなし。

自動車なんてものは、個人の持ち物ではないし、街と街の間を行き来する時など、よっぽどのことがない限りは利用する必要がない。

足になるのは、自転車か、モノレールか。

街の中にある、自転車専用道路の方が、はるかに利便性はいいだろう。

目的地は、自転車で二十分。

街の外周に向かって走らせていき、二つ目の公園と森を抜けたところで、空に向かってそびえたつ、壁が見えてきた。

外と、中を仕切る、壁。

その上端からは絶え間なく霞んだエアシャワーが噴き出ていて、外の世界を見えなくしていた。

壁の下、通用口の近くに自転車を止め、身分証を出す。

少し行ったところにある通用口に向かい、脇の端末に身分証を通し、手をかざす。

『確認いたしました、おはようございます』

カメラを覗き込んだところで、自動音声が入り、脇の扉がすっと、開いた。

扉を入って真っ直ぐ進み、左に折れて三つめの部屋。

そこが、オフィスだ。


『本日追加点検項目です。昨晩遅くに三番ノズルから五番ノズルの間で、微弱なノイズが検出されました。自動点検による確認は問題無し、機材の変形、損傷は認められませんでした。内容の確認を願います』

テーブルの上のディスプレイに表示される内容が、スピーカーの音声とともに流れていく。

内容は、ノイズが検出された時間、予想される原因と破損状況、修理の概要だった。

原因は、街の外の砂嵐か、磁気嵐が原因だろうと記載があった。

「確認しました、問題なし」

そう言って、確認ボタンを押し、端末に手をかざす。

しばらくして、確認完了の表示が出て、タスク一覧から該当が削除された。

「磁気嵐、か。ここのところ、なかったのにな」

そう呟いて、脇の窓から外を眺めた。

窓の外は、赤茶けた大地と、かすんだ空。壁の下から、隣の街に向かって伸びていく自動車用チューブ。

若干、空がキラキラして見えるのは、まだテラフォーミングが終わっていないからだろうか。

『以上で新規のタスクは終了しました。継続タスクの変更はありません』

今日の点検項目は先程の一つだけのようで、他のタスクは掲載されていない。長期予定の欄に、他の点検項目が二個ほど載っているだけだった。

「今日は、もう終わりか。あぁ、コーヒーが飲みたい」

そう言っても、どこからか出てくるわけではない。この部屋は飲食厳禁。そのあたりは、妙に硬い。

仕方ない、外の販売機まで、買に行くことにした。

扉を抜け、通路を右に進む。食堂に入っても、休憩中の数人以外には、壁の一角にパネルと端末、受け取り口が並んでいるだけだ。

パネルからホットコーヒーを選択して、手をかざす。

少し待つと、受け取り口にカップが出てきた。

「あぁ、しまった。ミルクを入れるのを忘れた」

仕方ない、諦めよう。今日はブラックだ。

窓辺のテーブルに座って、ブレイクタイム。

「珍しいな、今日はブラックか?」

後ろから、聞きなれた声が話しかけてきた。

「ミルクを忘れたんだ。そういう保は?」

振り返ると、そこには背の高い、ジャンプスーツを着た保がいた。

手には、トレイを持っている。トレイの上は、クロックムッシュとカレーパン、カプチーノか。

「俺は、朝飯。急ぎが入って食べ損ねてさ。これを食べたら、帰るよ」

そういうと、向かいに座った。

「急ぎって、ノイズ?」

ふと、思って聞いてみる。

「ああ、よくわかったな。自動点検だ、プログラムだって言ったって、最終的には、まだ俺が確認するんだ」

そういうと、朝食を食べ始める。

「今日のカレーパン、辛くないな」

「注文、間違えたんじゃないの?辛口、甘口あるでしょうに」

コーヒを一口。ん……薄い。

「きっと、ノイズのせいだ」

表情を見たのだろう、保が、カレーパンを食べきってから、そういった。

「なんでノイズで、辛くなくなったり、薄くなったりするのさ」

「どうも、自販機の制御に直接ノイズが混じったらしくてな、それで今朝は大慌てさ」

「なにそれ」

「やれ、湯が沸かないだの、コーラが炭酸じゃないだの、ご飯が玄米だっただの……そんな内容さ」

そう言って、壁の販売機を見た。

「変なノイズだっていうんだな。それに、昨夜の販売機騒ぎだ。時間はノイズの時間とぴったり」

「昨夜の自販機騒ぎって、何さ」

「何だ、ニュース見てないのか。自販機の前で、立ったまま変死してたってやつ」

そう言うと保はディスプレイを呼び出し、こっちに投げてよこした。

「おっと、投げるの厳禁」

ディスプレイを受け取り、そこに流れる映像を見る。今朝見たニュースの映像だった。

『昨夜遅く、販売機の前で変死体が発見されました。警察の発表によると、販売機の前で、立ったままで……』

「あぁ、見た見た、よく覚えてないけど」

「それだよ。手をかざしたとたんに、バチっときたのかどうか。そんな話聞いたことないから、まぁ、持病だろうってことが、警察の発表だけどな。ただ、時間が悪かったから、うちにも問い合わせが来たってわけ」

「管理が悪いって?」

「違う違う。何か、混ざってなかったか、って話さ。販売機自体のバグは、その時見つけられなかったから、わからないって伝えたけどな」

そういうと、今度はクロックムッシュにかぶりつく。

「……ハムじゃなくて、ベーコン……?」

「それ、かなり盛大なバグじゃない?」

SF好きですが、化学考証とかは不得手なので、ご容赦ください。

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