二話
「行くな!」
またあの日の夢だ。
この二年間毎日見てきた夢。僕は二年前森の中の小屋で一人目を覚ました。ベッドの横の机には少しだけかじられたパン、キッチンには水の入ったヤカンがコンロの上に置かれていた。そのほかに置いてあったのは一振りの剣とサイズの合った服だけ。小屋にある全ての物から知らないはずなのに既視感を味わった。知っているのか知らないのか、自分が信じられなくなった僕は服とパン、なぜか必要な気がした剣をもって小屋を出た。
頭の中で誰かがずっと僕を呼んでいる。
「君は誰?」
声は聞いたことのある声だった。夢の中でずっと僕に語りかけていた声だ。
「助けて」
声はただひたすらに僕に助けを求めていた。
「わかった」
助けなければならない気がした。僕の生まれた意味はこの声の先にある、そう感じた。
歩いている場合じゃない、走れ。僕は森の中を何かに手を引かれるように一度も迷う事なく抜けた。
森は唐突に終わっていた。目の前にいきなり現れた抉れた地面。足を森に向けたくなる。
そこは世界の終りの光景だった。いたるところに息の無い兵士が倒れ、点々と見える黒いものは燃やすものもないのに尚もその場で燃え続ける黒く禍々しい炎。静寂に満ち時が止まったかのような森の中とはまるで正反対な情景。
あまりの光景に後ずさりする僕の頭の中に声が響く
「助けて」
足は前に進んだ。僕は走った。走って走って僕は今、王都にいた。