サイボーグメイドはお嬢様が心配なようです [琴美サイド]
「博士。私はお嬢様のお体が心配です」
「そうか?」
私は、鉄のベッドの上で裸になっている。そして、胸や腹などのハッチを開けられ、ロボット丸出しの姿をしている。首も取り外され、上から伸びているアームに固定されている。頭と胴体部分は数本のコードが繋がっているだけ。見方によってはちょっとしたグロ風景に見える。
そして私の身体を眼鏡をかけた男性が見ている。見ていると言うよりは、点検していると言った方が良い。
「俺は、彼女には彼女なりの事情があると思うが」
私が博士と言ったこの男性は、京極太一博士。皇木重工ロボット開発課の主任で、私のボディを設計してくれた人。
ロボット開発とサイボーグ研究の第一人者として、世界からも注目の的となっている人物だ。
「お嬢様は、もう少しご自分のお体を気遣うべきだと思います」
お嬢様のダイエットは、正直不要だと私は思っている。お嬢様は、ダイエットなんかしなくても、綺麗な身体だし、顔つきも綺麗な人だと思う。でも、お嬢様は私の忠告を聞いてくれない。
「確かに、お嬢様は皇木重工の後継ぎになられる方。でも、だからこそ今の青春を味わいたいんじゃないか? 琴美。お前、お嬢様のことが好きなんじゃないか?」
「か、からかわないでください! 私は・・・その・・・お嬢様を守るのが仕事ですし・・・」
ちょっとだけ図星。私は、お嬢様・・・夏姫お嬢様のことが好きだ。でも、私はあくまで屋敷のメイド。そして、機械人間。正直、そんな私を専属のメイドとしてくれるだけでも、私としてはお腹が一杯だ。
「なるほどな・・・ それで、何でお嬢様のことが好きなんだ?」
博士にはお見通しのようだ。私は照れ隠しをしても、バレてしまう。仕事の時は、ある程度感情にリミッターをかけているのだが、こういうプライベート(?)の時は、リミッターを外している。というより、博士からの忠告で、ストレスの問題もあるから外すようにと言われているのだ。
この身体に慣れるまでは、24時間フルでリミッターをかけていたけど、そうするとストレスによる精神崩壊や脳の負担の増加に繋がりかねないということで、今は18歳の少女としての感情を出している。
「・・・私、ずっと前にお嬢様と同じ名前の人と約束をしたんです・・・何だかすっごく思い出に残るような・・・そんな人だったんです。
でも、私自身はっきり思い出せなくて・・・」
私は、この身体になる前の記憶をはっきり覚えていない。自分自身が何者か、どんな人生を生きていたかは大まかに覚えているけど、はっきりしたことは覚えていない。特に、幼い頃の思い出は、うっすらとしか覚えていない。そんな自分の身体が少しだけ憎く感じる。
「ふむ・・・だが、その子がお嬢様と同一人物じゃなくても、良いのか? ただ、それだけでお嬢様が好きなのか?」
「ええ。何だか、皇木重工製のこの身体になって、お嬢様のお世話をしているのも何かの縁ですし・・・ 私は、この運命を素直に受け入れています。ちょっと生身の身体が恋しいですけどね」
「はあ・・・ 若い乙女の考えは、俺にはわかんないねぇ・・・ さあ。定期メンテは終わったぞ。首繋げるから大人しくしてろよ」
「ハイ」
そう言って、京極博士は全てのハッチを閉めて、私の頭部を持ち上げる。そして、胴体に繋げる。
「本体トノ接続完了シマシタ」
ロボットのようなアナウンスが自動的に私の口から出てくると、私の首から下の感覚が戻り、手足を動かせれる様になる。
「博士。いつもありがとうございます」
そう言って、私は博士に向かってお辞儀をして礼を言う。
「いんや。俺もこれが仕事だからさ。お前の面倒を見ないと、お嬢様に叱られるからな」
博士はこう見えてもまだ20代。と言っても、三十路まであと2年なんだけど・・・ でも、見た目も性格も少し老けている。世界的な若き大天才なのに、性格はおじさん。
「さて。そろそろ寝る準備をした方が良いぞ」
「わかりました」
そう言って、私は大きなカプセルの中に入り、裸のまま横になる。すると、カプセルの蓋が閉まり、いろいろな場所から液体が出てくる。
「それじゃ、おやすみ」
博士のその言葉を最後に、私は眠りに着いた。