夏姫の思い出 [夏姫サイド]
「ねえ。なっちゃん。なっちゃんは明日引っ越すんだよね」
「うん。そうだけど・・・」
公園の砂場で、砂の山を作る二人の幼稚園児。ただ、二人の園児の制服はそれぞれ違っている。別の幼稚園同士なのだろう。
「なっちゃんは、私のこと忘れない?」
「忘れないよ。コトちゃんのことは絶対に忘れない!」
コトちゃんと呼ばれた少女は、涙ながらに言う。
「じゃあ・・・指きりげんまんしようよ」
「そうしようよ」
「指きりげんまん なっちゃんが私のことを忘れたら、針千本飲ます 指切った」
「コトちゃんも私のこと忘れないでね」
「うん」
「寝ちゃった・・・」
昔の思い出が夢で出てきた。子供の頃。私が近くの公園に行くと、その子はいた。私の行っていた幼稚園とは別の制服を着た女の子。胸には「ことみ」と書かれた名札を着けた少女。私は何時からかその子と一緒に遊ぶようになった。私はその子を「コトちゃん」と呼んでいた。
そして、コトちゃんも私の事を「なっちゃん」と呼んでいた。「なつき」だから「なっちゃん」。お互い、呼び名の付け方は単純なものだ。
「コトちゃん・・・結局、苗字は分かんなかったな・・・」
私は暫くして、引っ越すことになった。そして、コトちゃんとはそれ以来会っていない。だから、私はコトちゃんの苗字を知らない。もちろん、コトちゃんも私の苗字を知らないだろう。何せ教えあっていないから・・・
「コトちゃん・・・」
夢で出てきたので、無性にコトちゃんに会いたくなる。私もまだまだ子供だな・・・
私は起き上がり、深夜の廊下を歩くことにした。