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私の最高のメイドさん [夏姫サイド]

 私の家にはメイドがいる。顔は綺麗で、性格はクール。何をやらせても万能のメイド。歳は18歳。色白で、お化粧をしなくても、綺麗。そして、18歳には見えないくらい大人っぽくカッコいい女性。

 そんな彼女は、普通のメイドとは違っていた。私が知っているメイドでは・・・

琴美ことみー。悪いけど電話とってくれない?」

 大きな大きな屋敷に鳴り響く電話の音。そして、ソファーでメイドの名前を私は呼ぶ。

 私の名前は皇木夏姫すめらぎ なつき。皇木重工社長令嬢。所謂、お金持ちと言われる階級の一家に生まれた一人娘。私の周りには、黒のスーツを纏ったSPや何人ものメイドがいる。その中で、琴美は私のお気に入りのメイド兼SP。

「夏姫お嬢様。ご友人の方から電話です」

 琴美は、静かに電話に対応、そして私に受話器を渡す。相手はただのクラスメイト。連絡網で私にかけてきたらしい。淡々と用件を済ませて、受話器の電源を切り、琴美に渡す。

 彼女の本名は、四条琴美しじょう ことみ。一年前に雇われたメイドさん。料理、洗濯、勉強、なんでもできる万能メイド。そして、同い年なのにクールで美人。ただ、それだけの条件で世界のメイドさんを集めたら何人かの候補は出てくるだろう。でも、琴美はそのようなメイドとは違っていた。

「琴美ー。そう言えば、昨日のメンテはどうだった?」

「ええ。問題はございませんでした。ただ、博士の勧めで両腕を新しいものに取り替えましたので」

 そう言って、琴美は右の袖を捲くる。メイド服の袖を捲くると滑らかで白い肌が露出する。私としては彼女のこの身体は羨ましい。

「右腕部ノ接続ヲ解除シマシタ」

 ロボットのような口調で琴美が喋ると、琴美の右腕からロックが外れた音がする。普通の人間の腕からはこんな音はしない。

「こんな風になっています」

 そう言って、琴美は左腕で右腕を引っ張る。すると、右腕の肘から先がすっぽりと外れてしまう。右肘の離れている部分と胴体に繋がっている部分は何本もの色のついたコードで繋がっている。接続部を見ると、外側は白っぽい肌色の人工皮膚だが、中身はコードや機械などが詰まっていて、これを見る限り、彼女は人間とは言えない。

「あのさ・・・それを見せられても、私にはわかんないんだよね」

「申し訳ございません」

 私がちょっと呆れた感じで物を言うと、彼女は素直に謝り、外れた右腕を元に戻す。こういう点を見ると、しっかりしているのかしていないのだか・・・

 彼女の正体。それは、サイボーグ。メイドロボみたいな全身機械のメイドなんかじゃない。彼女の身体は確かに機械でできている。でも、物を考える思考部分などは生身の脳みそを使っている。だから、そんじょそこらのメイドロボと比べてもらっては困る。

 彼女の身体は、皇木重工製。つまり、ウチの父の会社が作った体だ。もともと、皇木重工は、鉄道車両、飛行機の機体、ロケットの部品などあらゆるエレクトロニック製品を作ってきた。そして、5年前に人型ロボットを開発。その応用として、サイボーグの研究開発を行っている。

 ただ、サイボーグは現在の世の中には出回っていない。ただ、まだサイボーグ一体の単価が大きいため、この世の中には、数少ない貴重な存在だ。

 琴美は三年前に交通事故に遭い、自身の身体を失った。その時、同乗していた彼女の両親は他界。彼女の搬送先はウチの会社と提携を組んでいた大学病院。そして、彼女は今の身体を得た。今使っている身体は、生身の時の彼女の姿とは異なる。もちろん、私は彼女が事故に遭う前の姿を知らない。話によると、身体を変えた時、かなりの精神的ダメージがあったらしく、それを機に感情をある程度制御している。そのため、彼女の表情がクールに見える。でも、心の中ではどんな表情をしているのかは、彼女だけしか分からない。

「まあ、いいけど・・・それより、勉強教えてくれない? 物理の問題がわからなくてさー ね? いいでしょ?」

 私は正直頭が良いとは言えない。特に理系は大の苦手。Ωの法則もつい最近知ったばかりだし、数学に至っては未だに円錐の公式がわからない。大企業の社長令嬢がこんな感じじゃ良くないのは目に見えている。でも、私は勉強が大の苦手。と言うより嫌い。父は大学に行けと言うが、私としては普通に働きたい。社長の椅子にも興味が無い。しかし、勉強と言う壁は何とかしないといけない。だから、いつも琴美に頼んでいる。

「・・・しょうがないですね。今日は何の分野ですか? 因果律ですか? 特殊相対性理論ですか? 量子論ですか?」

「え? 何それ?」

 琴美の言う言葉の殆どは理解できなかった。と言うより初耳。

「冗談です。75ページの電磁誘導の問題ですね」

「琴美のケチ」

 私は頬を膨らませ、ちょっとひねくれてみる。

「それでは始めましょう」

「それじゃあ、私の部屋に行きましょ」

 私はソファから立ち上がり、琴美とともに自室に向かう。

 琴美は、私と同い年。でも、勉強はかなりできる方だ。でも、琴美の話によると、サポートコンピューターを使えば、高度な方程式も演算装置ですぐ答えが出るし、無線を使ってネットにアクセスすれば、知りたいものも一発検索ですぐ出る。また、補助記憶装置を使えば、普通の人間より何倍もの記憶をできる。生身の人間からすれば、羨ましいことこの上ないのだが、琴美曰く「わからないものがある方が人間らしくて良いかと思いますよ」とのこと。確かに、人間らしさを捨てて便利さを手に入れるより、不便でも良いから人間としての生活を送ったほうが良いだろう。彼女は前者よりも後者を主張する。

「琴美は良いよね。頭のコンピューターを使えば、すぐ答えが出るんだから」

「お嬢様。何度も言いますが、この身体でいることは、人を捨てるのですよ。知りたい知識が今すぐ手に入ることは、人としての身体で人としての生活を送れることと比べれば、これっぽっちも嬉しいことではないのです」

 よく、私が琴美のことを羨ましいとか、煽てたりすると、人間らしさの方がどんなに素晴らしいことかと言って、あっさり否定される。

 こんな感じに。でも、何故、人間としての生活を送るように言う癖に、琴美はサイボーグとしての機能を使っているのか。それは、「お嬢様のためなら、私は人を捨てますよ。と言っても、もう捨ててるんですがね」とのこと。彼女はメイドの鏡だ。でも、私としては、そこまで尽くしてくれなくても助かる。

「さあ。お嬢様。勉強しましょう。早く終わらせた方がお父様もお怒りになられないでしょうし」

「そうね。それじゃあ始めましょ」

 私は豪華な部屋に置いてある質素な勉強机に向かって座り、近くのカバンから宿題を取り出し、勉強を始める。琴美は勉強机の横からあれこれ指示してくれる。琴美はメイド兼家庭教師。教え方も優しく説明してくれるから、そこらの家庭教師よりもわかりやすい。

 でも、私としては、教えてくれるのならやってほしいんだけど・・・



「やっと終わったー」

「お疲れ様です」

 物理の宿題を終わらせ、ぐーっと背伸びをする。この解放感は最高。

「そろそろお食事の時間ですね。お部屋で召し上がりますか? それとも食堂で召し上がりますか?」

「ん? ああ。今日もコレだけでいいや」

 そう言って、ポケットから一粒のカプセルを取り出す。

「琴美。水持ってきてもらえるかしら?」

「ハイ」

 琴美は一旦部屋を出て行き、水を取りに行く。

「お水をお持ちいたしました」

 水の入ったコップを一杯持ってくる琴美。

「ありがとう」

 琴美の持ってきてくれた水でカプセルを飲み込む。

「お嬢様。ダイエットはお体によろしくありませんよ。しっかり栄養を取られた方がよろしいかと・・・」

「大丈夫よ。今度の夏までに痩せたくてね」

 心配そうに私を見つめる琴美。それに対して、全然気にしていない私。

「しかし、私がここに来てから、私はお嬢様のご飯を召し上がった姿を一回も見ておりません。ダイエットよりは、健康管理をしっかりするべきです」

「あー・・・えっとね。実は、こっそり食べてるのよ。ダイエットダイエットって言いながら、私も修行不足なんだよね。ははは・・・」

 誤魔化し笑いをすると、琴美はじーっと私の目を見続ける。

「わかりました。でも、栄養はしっかり取ってください。お嬢様の体調管理は私の役目なのですから」

「うん。ありがと」

「それでは失礼いたします」

 琴美は一礼して、私の部屋を出て行く。

「私だって、琴美の作ったご飯・・・食べたいよ」

 そう言って、私は残りのカプセルが入ったケースを見つめていた。

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