一章 《死にゲー》の世界
さて、うまく〔シルクバード〕の体を使って牢獄から脱出した私はすぐに振り返った。
その先には先程までいた牢獄塔の入口がある。
そこを目指して全力疾走した。
なぜ、戻ったかというと先にも書いた危険な方向へ逃げろ精神である。
これは私が《死にゲー》を初めて半年経ってから発見した事実だ。
私はそれまで新しいデータを作ってこのチュートリアルをプレイするたびにあらゆる建物に逃げ込んでいた。
しかしそのことごとくは〔シルクバード〕や、そのお取り巻きによって襲撃され崩壊炎上してしまい死亡扱いとなってしまった。
それをどうにか回避する手立てはないかと考え、必死に探し求めた結果、偶然に偶然が重なって〈実はさっきまでいた塔が一番安全、しかも特典有り〉ということを発見した。
ちなみにユグステッドから脱出しようとするとロクな装備もないまま、押し寄せるモンスターとの戦闘と脱獄犯を追いかける兵士によって蹂躙される。
話は戻って塔に逃げ込んですぐに扉を占める、この扉は魔法がかかっていて外からは破壊されない作りだそうだ。なぜ壁が壊れるのかは制作スタッフに聞け、まともな答え帰ってこないと思うから。
「お前は囚人か、なぜここにいる」
すぐに兵士に呼び止められた、これは今後兵士並びに今後出向くであろう街の住民との友好度にも関わる重要なイベントだったりする。
「私はユキといいます、この塔の五回にいたものです
先ほどドラゴンの攻撃で壁に穴があいたのでそこから脱出しました」
ここでの選択しh上記と無言、私ほどの力があれば云々の三つだ。大体の選択肢は三択。
無言を選ぶと小突かれてダメージ、三つ目はそのまま戦場に駆り出されます。
「ではなぜ逃げずにここに戻ってきた」
「私は囚人の身とは言え貴方がたからの施しで生きながらえてきました、その恩義を果たしたいと思い戻ってきました」
本来なら仮を返しに的な答えなのだが自己流にちょっとアレンジ、うん自分に酔ってみたがこれは恥ずかしいものがある。
「……ありがとう、そこにある鎧と剣を君にあげよう。ぜひ使ってくれ」
このイベントで手に入るもの、友好度と剣、そして鎧とある地位がもらえる。
しかし大半の人間が塔に戻るという発想に行き着かず、安全地帯といわれる場所に時期こもってやり過ごし、最低ランクの友好度と最低装備で物語に駆り出されてしまう。
「私はユグステッドの責任者ウォルターだ、君の起こした事件は不問にしてもらうよう上に掛け合っておく、だから生きて街まで逃げるぞ」
ウォルターさん、とても情に熱い人である。そして私はそこに付け込んだ。
「ひとまず〔シルクバード〕をどうにかしてしまわないと……」
ここからはあのドラゴンをどうするかというクエストになる。
その方法は無数にあり、装備を手に入れたのをいいことに逃げ出してもいい。この選択をすると友好度が下がるが脱獄した時ほどではないため石を投げられることはない。
次に普通に戦う、却下である。なぜなら相手はラスボス、こちらの攻撃は聞かない。私がこの塔に逃げ込むのが得策という情報を流して数ヶ月、猛者が〔シルクバード〕と監獄で戦ってみたという動画で検証を行なった。結果は善戦、しかし製作者の悪意発動によって時刻を見る羽目となった。
相手の体力は攻略本によると45000、それに対してこちらの武器はわずか20、種族を力の強いものにしてもせいぜい相手の防御のせいで2ダメージ程度まで押さ会えられてしまう。
ちなみにキャラクターエディットと言われる自分の分身を作り出す作業は先ほどの兵士にうるさいと怒られるイベントの直前発生する。
話を戻して、たかだか2ダメージしか与えられないこちらに対して相手の攻撃は一撃必殺、さらに範囲攻撃や余波で壊れた家屋の残骸、がれきなども降ってくる。
動画をアップロードした人物はそれらを躱しきり、丸二日間戦い続けた結果……運営の悪意によってゲームオーバーに導かれた。
つまり、残り体力3%を切った瞬間それは起こった。
某ドラゴン○エストでいうベ○マ、体力全快呪文を〔シルクバード〕が使用した。
それと同時にユグステッド全域が効果範囲というとんでもない魔法を発動した。
その動画の最後はアップロード者の泣き声で締めくくられている。そして、コメントも泣いている顔文字や悲鳴で埋め尽くされていた。
つまりこの時点では絶対勝てない相手なのだ。
なので最善策と言われている手段を使う。
「私に作戦があります」
まずウォルターさんに話しかける。
この時できるだけ難しい顔をしたほうがいい。
実際画面の中のキャラクターはそうしていたし。
「この塔の生き残った囚人にやつを追い払う手伝いをしてもらいましょう。」
ぶっちゃけてしまえば他力本願、人海戦術でなんとかしてしまおうというもの。
もともとこの塔に捕らえられていたのは軍機違反者と密猟者、そして主人公のような特殊な力を持っていて下手に反乱とかされたら怖いし捕まえとこう的な方々がいる。
そのため戦力としては申し分ない。
「しかし彼らは囚人だ」
「私も囚人です」
こういうとウォルターさんは黙ってくれる。押しの弱さに定評のある男は伊達ではない。
「しかたない、彼らもやらなければ死ぬとわかっているだろうしな」
こうして私は手駒を増やすことに成功した。
こうなるとあとは簡単だ、主人公の十倍の(それでも20)ダメージを与える魔法使いや、普通なら即死する攻撃を受け止める剣士が前線に出てくれるので私はある程度安全になる。
そう思っていた。
ウォルターさんが他の兵士さんと協力して開放してきた囚人を見て違和感を感じた。
ゲームで見たときよりも人数が多い。
それによく見ると私と同じような、黒髪黒目の人物がちらほらといる。
この世界は茶髪黒目や黒髪赤目はいても髪も目も同色という種族は一つとしてない。
つまり、私と同じ境遇の人たちがそこにいるということだった。