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365日のアマリリス

機械の中の友人

作者: 紫藤くらげ
掲載日:2026/04/04

 四角い端末を操作する。「おはよー」と挨拶をすると、少し経ってから「おはよう」と挨拶が数個表示された。

私はまだ布団の中。寝起きの状態でスマホアプリにログインし、ギルドの仲間に挨拶をした。数人から返事があって、「今日のアップデート楽しみ」とか、「新ガチャ早く引きたい」と各々がこのアプリを楽しんでいる。

 私も今でこそ楽しんでいるものの、始めた理由はただの暇潰しだった。思っていた以上に時間が出来てしまって、何をしようかとボーッと考えていたら、1つのアプリが目に止まった。リリースされたばかりのアプリで、絵柄は私の好みだったし、何よりも2Dな事が良かった。私のスマホでもサクサク動きそうだという理由で、気がつけばインストールを済ませていた。

 人見知りの私は、なかなか交流はできなかった。チャット機能もあるし、ギルド機能もある。それなのに私はほとんどソロでアプリを楽しんでいた。ただ、そうなると飽きが来るのも早い訳で、自分で立ち上げたギルドも過疎化の道を辿っていた。「無言OK、ご自由にどうぞ」とソロプレイを楽しむ人達用のギルドを立ち上げたものの、ログインが1週間前以上のメンバーが半数を超え、ギルドの機能がほとんど稼働していない状態が続いた。

 もう引退かと心に決めかけた頃、メッセージが届いていた。ギルドの勧誘だった。元々私のギルドにいたメンバーなのだが、段々と私のギルドランクが下がっていく事が気になって声をかけたらしい。

 結局、私は自分のギルドを解散して、新しいギルドに加入した。トップオブ人見知りである私は、しばらくは敬語で話して、あまりチャットにも書き込みはしなかったが、流れてくる会話が面白くて、徐々に発言する回数は増えていった。今ではふざけ会える程に馴染んでいる。

 顔も知らない本名も知らない友人との会話は快適だった。面と向かっての付き合いと違って、ズカズカと踏み込んでこない。踏み込まれたとしても、内緒とでも言えばそこで会話はあらかた終了する。リアルではこうはいかない。空気を読んで読んで読んで、自分が空気になるように努める。人付き合いは苦手で、上手くスタートダッシュができたとしても、己を知ってもらおうとすればする度、ズカズカと詮索される度に、私の化けの皮が剥がれていく。嫌われないようにと振る舞ってみたところで、私の何かが鼻につくのか、リアルで友人と呼べる程仲がいいのは、片手でお釣りがくる程しかいない。離れていく友人は多かった。私にきっと問題があるのだろうと、膨れていくのは被害妄想。この性格も疲れるものだとチャットのログを目で追っていると、背中がひやっとした。

 文字同士の罵り合いが始まった。私のサンクチュアリが存続の危機かもしれない。最近入ってきたメンバーが空気の読めない発言をした。皆はスルーを決め込んでいたのだが、あまりにも目に余るのか、1人のメンバーが痺れを切らして今に至る。

 結局は、その新規メンバーはギルドを去った。顔が見えない分、言いたい放題になる事も否めないのがネットの世界。現実と仮想、どちらも長所と短所が存在するが、どちらも結局のところ疲弊するのだ。

 それでも優劣を比較すると、私はまだ仮想世界に逃げ込む方がマシだった。何も知らない相手だからこそ、もしも何かがあったとしても、ぶつりと縁を切ってしまえばいいだけだから。

 人の世界に疲れたんだ。

 飛び交う怒号が耳に飛び込んでくると体が萎縮する。だから私は逃げるんだ。否定しない同志の元に逃げるんだ。もしもサンクチュアリがなくなったのなら、また新しい仮想に逃げこめばいいだけ。

 人見知りの私には、現実世界はハードモード。ノーマルモード、イージーモードに逃げていたから、私は元には戻れなくなってしまったけれど、友人と話ができれば良いとリアルから目を背けて、今日もまた、私は電子の海を泳ぐのだった。

現実世界は怖いものだと脳がいまは誤作動を起こしています。

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