村長への復讐
村を出る前に、俺にはやるべきことがあった。
裏切られたまま、何もせず立ち去るつもりはない。
「……まずは、てめえからだ。村長」
俺を育てた育ての親。
だが、同時に俺を処刑に追いやろうとした張本人。
──屋敷の裏手に回り、窓を蹴破る。
ドン!
鈍い音と共に、窓ガラスが砕け散る。
「な、何事だ!? 誰だ、こんな時間に!」
慌てふためく村長。
その醜く肥えた身体を、俺は冷ややかに見下ろした。
「俺だよ。カイ・アルティスだ」
「お……おまえ、死んだはず……っ!」
「残念だったな。生きてるし、力も手に入れた」
ゆっくりと歩み寄る。
村長は震えながら後ずさった。
「ま、待て! おまえを処刑しろって言ったのは、上からの命令で──!」
「知ったこっちゃねぇな」
俺は右手を伸ばした。
≪スキル【強奪】発動≫
ズゥゥゥン……
村長の身体から、光の粒子が流れ出す。
体力、魔力、微弱なスキル……すべて、俺の中へと吸い込まれていく。
村長は膝をつき、嗚咽を漏らした。
「た、助け……」
「黙れ」
冷たく言い捨て、村長の机をあさる。
そこには大量の金貨と、"スキル石"が隠されていた。
(……隠し持ってたのか。村のためじゃなく、自分のために)
俺はそれらをすべて回収した。
そして、机の中にあった領主宛の手紙も見つける。
──《裏取引》《村人の売買契約》《貴族への献金》
腐りきった証拠だった。
「……やっぱり、救いようがねぇな」
そのまま屋敷を後にする。
村の中心部へ向かい、鐘を叩き鳴らした。
ゴォォォン……!
目覚めた村人たちが集まってくる。
俺は、高らかに宣言した。
「村長は、貴族と裏取引して村を売ろうとしていた。証拠もここにある!」
手紙を掲げる。
どよめきが広がる。
「そんな……」
「俺たちを売るつもりだったのか……」
怒りが、村人たちの中で渦巻き始めた。
「信じてたのに……!」
「裏切り者め!!」
群衆が一斉に、村長の屋敷へとなだれ込んだ。
俺は、それを見届けると、静かに背を向けた。
(これで、少しは清算できたか)
月明かりの下、俺はひとり歩き出す。
次の標的を、静かに心に描きながら。