俺の瞑想が深すぎて、幼馴染に何かされたけど何も感じていなかった件について
瞑想。
それは禅カルチャーなアメリカのマインドフルネスから逆輸入したのか、古くからの日本的霊性なのか。
定かではないことについては、畢竟、沈黙こそすべきと。論理的哲学的に論考するとして。
中学一年から朝の瞑想ーー、うん、朝の読書だったけど、便宜的に試験運用で、うちの学年は瞑想だったのだ。
やってみると意外と目を閉じて、何も考えない。この美しき瞑想に俺はふけっていった。
朝の瞑想、昼の瞑想、夜の瞑想、睡眠前の瞑想と。
瞑想は進化を遂げて、俺の集中力は外界を完全に遮断できるほどになった。意識を操作することが可能となっていった。
高校一年になって、集中においての悟りを開いてしまっていった。誰も俺の集中を止めれるやつはいない。
まぁ、でも、いかに悟りを開いたと言っても、一部の開眼なだけで煩悩まみれで自慢欲も承認欲求も人並みにあった。もちろん性欲だって。
「俺は今から瞑想状態に入るから何かしてみてくれ。きっと俺はそれに無反応だし気づきもしないから」
幼馴染の女の子(仮)を部屋に呼んだ。(仮)なのは、どうしても幼馴染ということを認めてくれないからだ。きっと僕が何の取り柄もない平凡すぎる学生だからだ。幼馴染といえば、可愛くないといけないと男が感じるように、女子側は幼馴染はカッコよくないといけないと思っているのだ。
だが、ここで俺は特技を見せる。
完全瞑想状態ーーアルティメットマインドソーサー。
ソーサーは操作をカッコよく厨二化したものだ。決して、コップの下のソーサーではないぞ。
完全瞑想状態の、芳しきそこはかとないオーラで幼馴染は俺を幼馴染と認める。完璧だ。このために瞑想してきた。
瞑っ!!
想っ!!
「ふぅー、どうだ。これが今の俺の到達点だ」
幼馴染が何をしたのか全然分からない。何も感じていないから。もしかしたらデコピンされたり頬をつねったり、背中に氷を入れたりされたかもしれない。
だが、何もわからない。罵詈雑言を言われたかもしれない。俺の幼少期の恥ずかしいエピソードを語ったかもしれない。
「ほんとーに、何も感じていないの」
「そうだ。すごいだろう」
女の「さしすせそ」を使ってくれ。
「もう一回、やってみて」
えっ、もう一回。
いやいや、この完全瞑想状態は一日にそう何度も繰り返せる技じゃないんだが。
連続して行うと、少し感覚が残る不完全瞑想状態になってしまう。
だが、俺なら、できるはずだ。
ここで逃げるわけにはいかない。逃げちゃダメだ。
「いいだろう。もう一回やってみせよう」
瞑っ!!
想っ!!
ああ、ダメだ。完全にトリップはしきれていない。
空気を感じる。外界があることがわかってしまう。
宇宙と一体化できていない。
ん、なんか口元に。
唇に何かが当たっている。当たっているということだけ。感触は何もわからない。
ん、あれ、これだけ。
もっと、集中を乱す何かをしてこないのか。
ビンタとか髪の毛引っ張るとか。急所を踏み潰すとか。
ああ、もう思考しまくってる。不完全どころか素人の瞑想レベルにまで落ちてる。雑念だらけだ。
「今、何かしたか。全然分からなかった」
「すごいね、また今度見せてね。もう一度」
いったい、俺はなにをされたんだ。
気になって、ふと唇に指を当ててしまう。
「……やっぱり……分かってんじゃん」
幼馴染の顔が朱に染まっていた。
え、何が。
まさか俺、さっきファーストキスを経験していたりーー。
いやいや、瞑想状態で初キスなんてノーカンですよ。
「いや、ごめん。本当に感覚がなくて。もう一回、目を閉じてるから、してみて」
「瞑想じゃなくて」
「唇にだけ全てを集中する瞑想をします」
そして、俺は今までにない一体感を得たのだった。