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神話の冒険者エリクディス  作者: さっと/sat_Buttoimars
第1部「戦乙女見習いスカーリーフ」

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28 古代都市編6話:七本槍の一人ランズヘル

「お前がいなくなったら俺はこれからどうすればいいんだ!?」

 フローディス公は近衛兵に左右から拘束されながらじたばた足掻いた。感情は隠せという教えはどうしても身に付かない人物。その隠さない表情と声がまた理詰めと違う効果を生んできたということもあった。少なくともコルドン大将軍には出来ないことが出来る男。

「今から現行の軍をあの地底式軍に野戦で当てるとどうなるか見せます。どれ程能力に差があるかは断片から全体を見極めなさい。その後はあの武器と軍を複製しなさい。地底人のことは出来るだけ文書にしてあります。その時、次の大王は貴方か貴方の息子です」

 サルツァン市郊外にてフローディス公軍の内、まずは前衛の志願歩兵三〇〇〇名が前進。

 三〇〇〇名の後方に客人が一名。先導せず、腕組みしながら死出の旅路を眺めるのは人胴馬体のケンタウロス種族で戦乙女の、それも七本槍の一人と謳われる者ランズヘル。甲冑姿から飾り髪と尾を三つ編みにして長く垂らす。その立ち位置は死体の山の出来上がりを見守るもの。此度、コルドンの招聘に応じた。

 陣形を組んで構える地底人軍一四〇〇〇名の最前面には”大筒”の列があり、少なくとも志願歩兵を捉えている物は一〇門。

 要塞を破壊する大筒を目前に悠々と陣形など組んでなどいられない。射程内で足を止めることも許さない。兵器自体は機動性に乏しく、土塁に設置する形なので射線から逃げればどうということは無さそうだが、進みたい路に従って置かれていた。それを避けると変な迂回機動を取らされ、そうしている内に一方的に砲撃されるという位置取り。

 志願歩兵の構成は中央縦隊が装甲槍兵、左右の縦隊は装甲弩兵である。初めは散開した状態で、体力を温存して歩いた。本来は初めに投石機を使ったり、置き盾を持つ弩兵だけを先行させたりと、遠距離から小手調べと行きたいところだったが、あの大筒がそれをさせないとコルドンは判断した。

 雷鳴、発煙発火、石球が志願歩兵の陣内に着弾。はっきり言って狙いはでたらめで、建物の敷地内の何処かに着弾するのがやっとであろうという弾道である。しかし誰かには大体当たる。聞いたことのないような大きな音と、抉れる土に、ばらばらに砕ける身体。矢の雨で一〇倍殺して逃げない兵士でも怯える。震える空気量が違う。

 更に前進。

 容易に割れない鉄球は、たまに地面にめり込まずに転がった。散開しているので志願歩兵達は避けられなくもないが、避け損ねた者は足から潰された。

 志願歩兵はこれくらいでは足を止めず、遠足するように接近する。雷鳴はこけ脅し、そして大球の当たり辛さに気づいた猛者はあくびすら出る。要塞に立て籠もっていればこその恐怖だった。壊れる建物に潰される恐怖があったればこそ。一つあたりの発射間隔も長い。

 相互距離が縮まる。歩兵の射撃距離感。

 志願の装甲弩兵の装備には金が掛かっていた。装甲姿で、背中に担いだ大盾を立て、巻き上げ機で強烈な弦を引いて矢を番えて斜め上の角度、最大射程で放つ。

 敵陣から太鼓の連弾が聞こえ始める。急かすのではなく、冷静さと精確さを促す速度。敵の方陣全体を覆うように黄色い風が吹いて矢が反れる。反れることは理解したまま射撃続行。矢はいっそ使い切って良い。

 装甲槍兵は前進継続。

 何かしらの号令。中央の大型機械杖を持つ敵兵の横隊、細めの杖を支えに使って機械杖を構え、黄色い風が一瞬止み、第一列一斉射撃、黄色い風が始まる。そして撃った兵が最後列に回り、第二列がやや前進して、黄色い風が止み、一斉射撃、黄色い風始まる。繰り返し。歯車機械のような動き。言うなれば反転行進射撃。

 思ったよりも遠距離で地底人はこれを始めた。一斉射目はあまりこちらの志願歩兵を殺さなかったし、何なら盾に甲冑がそこそこ防いだ。二斉射目から命中と死傷率が微増し、三に四と来れば明らか。

「突撃」

 コルドン大将軍はラッパ手に突撃ラッパを吹かせ、撃ち負けが確定していると見込み、白兵戦に移行させる。装甲槍兵が先行、遅れて弩兵が剣を抜いて続く。

 大型機械杖の敵横隊、前進する一斉射撃から後退する一斉射撃に転換し、数度行ってからは射撃を止めて走って後退。それに続いて大筒周辺にいた敵兵も後退。

 挑んだ白兵戦への距離感は開いたまま。

 次に左右の中型機械杖の敵方陣、第一列一斉射撃、撃った兵が最後列に回り、第二列が一斉射撃。繰り返し速度が大型より頻繁。威力射程は劣るようだが十分に甲冑板金に穴を開けた。

 大型機械杖の敵横隊、槍兵方陣の中に紛れ込んで槍襖の隙間から一斉行動に拘らず射撃再開。

 敵の陣形は、四つの方陣で一個の大方陣。隙間を大筒と荷車と荷物と杭打ちで塞いでいる。

 志願歩兵三〇〇〇、槍をぶつけ合う前に、水を掛けられた雪のように解けて潰れて地にへばり付いた。左右に迂回しようとも堅固な守りがあって裏の掻きようもない。

 準備砲撃もせずに要塞へ突撃すればこうもなろうという姿そのまま。

「突撃」

 コルドン大将軍は二の手、志願歩兵の後ろにつけていた志願の後衛、装甲騎兵隊五〇〇〇に号令。志願歩兵達は盾とも、道路とも言う。

 敵方陣の正面は射撃続行中。別方陣から予備兵が到着しているが基本陣形に変更無し。

 鉛球を受けて装甲騎兵達は次々と落馬、転倒、転倒に巻き込まれた転倒、音に驚いた馬が逃走。

 大王の時代より、この高価な装甲部隊による突撃に耐える者などいなかった。

 遂に敵方陣に接近。歩兵が扱える長槍より長くなるよう調整された騎兵槍を構えて装甲騎兵が突っ込む。

 馬が怯えればそれまで。怯えない馬が突っ込んで敵兵に槍を突き立て柄が折れて吹っ飛ばして殺して、敵の長槍を受ける。外しようの無い至近距離で機械杖に撃たれる。

 敵前列の槍の柄が一本折れる、二本折れる。更に後列から突き出した長槍で支えた敵兵が倒れる。倒れない兵が踏ん張り、長槍兵で作る鉄と肉の壁を保持する。

 騎兵槍を捨てた装甲騎兵が長剣を振るって刺しまくる。

 少し混じる剣盾兵が近づいて、盾を構えながら小型の機械杖で装甲騎兵を撃ち倒して剣で刺す。

 装甲騎兵の横合いへ斧槍兵が仕掛け、鉤で引っ掻き落として斧で滅多打ち。

 方陣内側から折れた長槍が補充される。敵予備兵が装甲騎兵を左右、背後からも包囲して皆殺しへ移行。

 突撃中に落馬した装甲騎兵が徒歩で遅れて到達し、長槍で牽制されている内に機械杖で撃ち殺される。

 大筒周辺でうろうろしている装甲騎兵の生き残りは、どうやればこの巨大兵器を壊せるか分からず戦鎚で叩いてみた。大筒の後ろの方に小さい孔があるからこれを潰す? 太い釘があればいいのか!? そんな物ここにあるわけがないだろう、この袋をたくさん詰めれば? いや、火炎を噴くだけじゃないのか? などと四苦八苦足掻く。結局壊す方法は分からなかった。

 組んだ方陣の外で戦う敵部隊が大筒周辺の志願兵を掃討しに来る。その中にコルドン大将軍はいて、大筒の中を覗いてみて首を捻る。

 このような巨大な青銅の筒、持ち運びが大変だ、と。

 地面が揺れる。第三の手。

 大男かそれより少し大きい程度の、装甲歩兵というには重々し過ぎる足取りで突っ走る鋼鉄兵団が突撃。

「鉄と肉こそ喜びよ」

 あまり聞かれぬ、日常会話でも鬨の声にも混じりそうにない言葉が発せられ、敵陣中に溢れ始めた色魔法の渦が消沈した。ようやくここで戦乙女による魔法封じの奇跡が行われる。

 知神の神官の命によって動くゴーレム二四体。永久銅ではない鋼鉄の身体を揺らして進んでいく。

 縦穴の発掘品の中からゴーレムに関する書物が発見されていた。また知神の神官達は他の遺跡から発掘していた設計図とそれを照らし合わせて、ある種の設計が合致すると判断した。そこから過去の再起動記録を参考にして実験を繰り返し、この決戦に味方となるよう間に合わせた。

 大筒の威力ならばこのゴーレムでも一撃で機能停止に陥ったと思われるが、大筒を操作する敵兵は志願の歩兵と騎兵八〇〇〇の犠牲で引き剥がした。

 大筒を隅々まで観察し続けるコルドン。その身は両端が尖る大盾に覆われ続け、鉛球から守られている。

「本当にこんな作戦で良かったのか?」

 大盾を持つランズヘルが奇態を晒す大将軍を見下ろす。その身を中心に極光の輝きが渦巻いており、これは今、大量死した勇士達の魂を奔流にして飲み込んでいる姿。ここまで戦乙女にとって”美味い”戦場も中々存在しない。

「頭を切り替えるためには衝撃が必要です。それに……」

 その極光の流れを掻き分けるゴーレム達が地響き立てて駆け抜けていった。死体の絨毯は掘り返されるように踏み荒らされた。

「……生贄は多い程良いのでしょう? 戦乙女ランズヘル」

「そうとも」

 コルドンはゴーレム達が地底人共を何とも容易く虐殺する姿を見届け、剣の柄に手を掛けた。

「私の腕は雑兵並みでして」

 鞘から刃が見えるか見えないか、その辺りで大将軍はランズヘルの大盾で頭を叩き潰された。

 戦乙女は戦場で英雄の魂を回収する。時に自ら手を下して。


■■■


 夜の森、枝葉の隙間から見える極光。横断山脈以北で見られる自然の、天神の悪戯のものともまるで違う。あれが偽物かというとこれも違う。

 暗闇に没せず、四つ脚と翼が良く目立つ姿。神獣の一種かと見紛うが、腹の下まで甲冑で覆う元種族ケンタウロス。唯一世界大陸西南部では珍しい。

 四つ蹄の着地が地面を抉る。丁寧に翼で体重制御などせず、途中で飽きて体重、速度に任せたのだ。翼は実体を持たないのか畳むようにして極光のもやになって消える。

 派手な登場。敗残兵宿営地の者達は臨戦態勢に入るか入らないか迷う。この者、敵か味方か? こちらの戦乙女、スカーリーフが槍を構えた後の行動に従おうと皆が固唾を飲む。

「初めてだな、妹よ」

「四つ脚の親戚なんていないけど」

「戦乙女のランズヘル、巷では七本槍の一人とやらに数えられている。分かるか?」

「あんた誰?」

「名乗ってからあんた誰とは何だお前」

 両乙女の間にエリクディスが割って入る。いきなり暴力に巻き込むなよ、とわざと咳払いしながら。背にはスカーリーフが隠れるように。帽子のつばに当てる挙手敬礼。

「お初にお目にかかります。こちらは戦乙女の見習いスカーリーフ。ワシは戦神より神命を受け教育係を仰せつかっておりますエリクディス、魔法使いもやっております」

 ランズヘルは人胴部を倒すようにして視線を、エリクディスに合わせて下げる。

「進捗捗々しいかな?」

「それがまた、しかし、実はこれでもですな……」

 スカーリーフ、エリクディスの腰のあたりを槍の石突でぐりぐりする。

「いったいわ馬鹿者!」

「うっせーハゲ」

 二人の仲良しはさて置いておいて。

「このランズヘル、地底人とやらの戦いにこれから加勢するぞ」

「もしや、戦神が加担してくれるということですかな?」

 大物の参戦となればそのように見てしまうもの。

「いや、私個人の参戦だ。対価は貰ってある」

「対価とは?」

「好奇心が旺盛だな、魔法使い」

「失礼しました」

「まあ良い。私は自分で言うのも嘘臭いが協力的な方だ。姉妹には腰が重い奴、哲学がうるさい奴、人情の無い奴、見境の無い奴、色々いる。”はずれ”ではなくて良かったな」

「仰る通りかと」

 協力関係を結ぶ、という話し合いに至ってもスカーリーフは槍を下ろさなかった。戦乙女なる強者、目にするのは今日が初めてである。何を、どこを信用していいか分からない。不信ならば戦いの構えは解かない。

「しかしなんだ妹、スカーリーフ、その姿と臭いは? 狂戦士か?」

 先輩姉からの苦言。

「あん? 戦い方も知らないって?」

 この森の中では塗りたくった泥を綺麗に洗濯する水も乏しく、また塗り直す手間も考えればそのままであった。

 しかし言わんとするところはそれらではない。

「私に臆せんのは良いことだ。しかしなるほど、教育係を置く理由も分かった。いいか妹よ、お前が泥に塗れるのはそうしなければ勝てないからだ。要するに弱い」

 尖りの大盾、無から極光伴って現出。槍の奇襲を防ぐ。

 スカーリーフは槍の二撃目と同時、一撃目の最中にひっそりと落とした短剣を足爪先で取り、ランズヘルの前足、蹄を刺した。馬なら動揺するところだが、そうはならない。

 ランズヘルは尖りの大盾、決闘用の武器を兼ねる盾で連打刺突。とにかく押すか潰すか貫こうか、前へ前へ。常人なら地面と混ざっているところだがスカーリーフは避け、当たっても衝撃を逃がして跳ねる。左腕の小盾では捌くというより当たりの勢いに乗って無傷状態を維持。

 スカーリーフは槍もまともに振るえず押される。たまに足技でランズヘルの甲冑の隙間を狙う。刺さっても傷は浅く、動きを止めるに至らない。

 ランズヘルは戦神から与えられた翼を現して広げ、四つ脚には出来ない動きを加える。跳ぶに加えて飛び、滑空、強引な方向転換。木の幹を蹴って三角跳び。熟練すればただの”飛び道具”ではない。

 スカーリーフは戦法を変更して地面から樹上に移動。投石器に持ち替えて、目晦まし程度に石、土、枝まで掬って投げる。

 ランズヘルの体重と力では樹上高所に乗り込めなかった。枝は折って曲げてしまい足場にならない。追撃に失敗、遂にはうるさい目晦ましもあって見失う。

 森の闇の向こうから投石。甲冑の隙間に尖頭弾命中、肉を抉る。ゴーレム狩りで特に洗練された一投である。

「本業は戦士ではなく狩人というわけか! ではこれでどうかな? エルグランのコルドン……」

 極光の奔流、渦巻いてランズヘルから広がって先に没した三〇〇〇の歩兵、五〇〇〇の騎兵が森中に展開された。また暗闇もその光で照らされ、潜める闇も周囲から消え去る。

「……軍団。妹はどこだ!? 探せ!」

 八〇〇〇の兵が動き出し、少しして伝令がランズヘルの元へやってきた。

「いたか?」

「いえ。エリクディスを名乗る者が面会を求めております」

 ランズヘルは溜息を吐く。傍に立つコルドン大将軍に尋ねる。

「どう思う?」

「下らない遊びは止めて地底人に対処すべく協力関係を構築すべきでしょう」

「戦乙女の喧嘩が下らんと言うのか」

「全くそうですが」

「新参のくせに言う、この神学知らずめ。誰でもいいから戦乙女よ来てくれ、みたいな間抜けな祈祷を発しただけはあるな」

「左様でございますか。知らなくて良かったようです」

「やれやれ。一〇〇人斬りより一〇万殺しが”美味い”と思ったのだが」

 とんだ”喉越し”もあったものだとランズヘル、大盾を消した途端に目前に何か迫って手を反射的に出すと、手甲の隙間に弾丸が刺さって指が飛び、兜の面帽を打って跳ね返る。

「これでもか?」

「味方は強い方がよろしいでしょう」

 夜空には極光の筋が幾本か走り始めている。他の戦乙女、七本槍に数えられる者達に限らず、戦士の魂を”おこぼれ”で拾えないかとたかってきている。

「お手付きの戦場に来るとは禿鷹共め……あの魔法使いを呼べ。旗手、白旗揚げろ!」


■■■


 話が通じる者同士、エリクディスとコルドンの間で話し合いが速やかに行われた。

 現状説明から。

 新ゴーレム軍団はサルツァン市郊外で地底人軍主力を撃破したものの一戦で稼働限界を迎えて故障。全力の不眠不休で修理中だが未だ不具合が多い。

 生けるフローディス公軍は地底人の装備を回収して研究中。

 地底人軍は宿場要塞へ後退して再編中と見られる。

 周辺領国軍は隙有らば何か出来はしないかと国境近辺に軍を集結中。戦国乱世には禿鷹が住まう。

 以上の状況からサルツァン軍も新たな有事に備える以上のことが出来ないでいる。

 まずエリクディスは逃げられる体力がある者だけを連れて離脱し、サルツァン市へ向かうことになった。生存の望みがあるならその通りにする。受けた神命は博物誌の原著であり、地底人の撲滅ではない。まず生き残ってこそ次がある。

 一方のスカーリーフはランズヘルに同道し、引いても進んでも死ぬぐらいしか出来ない傷病兵達を連れて地底人の本拠地を叩きに行く。英霊軍団が展開出来るのであれば戦力に不足は無い。

 まずは夜襲を仕掛ける。

「鉄と肉こそ喜びよ」

 ランズヘルの魔法封じ。遺跡都市にて、松明よりも色魔法を頼りに維持されていた赤い光の照明が消失。地底人達が口々に騒ぎ出す。太鼓が叩かれ警報となる。

「どういう意味それ?」

 スカーリーフが質問。魔法を使う時に述べる口上も色々あるのだ。

「魔法封じの奇跡だが、お前はどうだ? 私はこの言葉がしっくり来る」

「えー、魔法は無粋、って」

「ほう! 言葉には大体の性分が出るもんだ。他の奴等も面白いぞ。ズルするな、仲良く喧嘩しましょう、臭ぇ口閉じてろ、って言う姉妹もいるぞ」

「へー」

 何やらいつの間にか戦乙女姉妹は仲直り。飛んだ指も、真に血肉が通っていない戦乙女の霊体ならばくっつければ癒着して禍根無し。

 役者が違った。白旗を揚げてからランズヘルが何の拘りも無く、私の負けだ、強いなお前、凄いなスカーリーフ流石だなぁ、その腕前は天才か? 金エルフは昔から侮れんものよなぁ、などと言ったことによる。その辺の”山出し”とは貫禄が違うのだ。

 色魔法を封じた上で、傷病兵は大きく散開しつつ決死となって命を捨て、獣のような咆哮を上げて攻める。これで敵兵の注意をあちこちに向けさせた。機械杖は集中的に使われると何かと厄介、という経験則である。

 魔法封じが通じない、錬金術による機械杖の発光炸裂が無数。恐怖を感じる地底人の叫び声も同数。血や糞、病で異臭を放つ者達による暗中の切り込みは、それは恐ろしいもの。

「落ちるなよ」

「うん」

 進路上の地底人兵、ランズヘルの前進する踏み潰しで形状崩壊。四つ足で蹂躙しながら、機械杖射撃を大盾で防ぐ。またその盾裏から投げ短槍を、無から極光伴って抜き出しては底無しで投げる。貫通、複数、地面に縫う。見習いには真似出来ない武器庫の奇跡。

 スカーリーフはランズヘルの馬体の背に乗り、足指足裏で掴まる。大盾の守備範囲外、側面背面を警戒しては機械杖を向ける動きがあれば投石で射殺。雷薬へ着火する火縄にそもそも点火されていない場合も多い。常日頃から灯しておく物ではなかった。

「あっち」

 スカーリーフの案内で遺跡都市の縦穴入り口まで到達。

「この下」

 魔法封じの影響で縦穴壁面にあった、黒い石の階段は消失している。ここにも灯りは無く、月と星灯りもわずかにしか届いていない。

 ランズヘルは構わず縦穴に飛び込んだ。斜めに落ちて岩壁を四つ脚で蹴って跳び、速度相殺、また斜めに落下、また蹴る。三角跳びを繰り返し、最後には翼を広げて軟着陸しようとして、やっぱり閉じて急速落下。縦穴の底に無数に溜まっている落下死体、負傷者、無事な敵の中から、元気そうな牛トカゲの背中に着地、蹄で鱗を削って皮と肉を破って骨を砕いて、脊椎に大盾の先端を突き立て殺す。

 スカーリーフ、下馬。光源はランズヘルがわざと発しているわずかな極光のみ。

「屈め妹」

 ランズヘル、奇跡の武器庫から巨大な矛槍を取り出し、空気鳴らしてぶん回す。縦穴の下は地上へ出ようとして失敗した者達の溜まり場になっていた。これで大体の敵はぶった斬られて死ぬ。武器で防御してもぶっ壊れて諸共圧し折れる。

 恐ろしい敵であるランズヘルには機械杖の鉛球が集中するが分厚い甲冑に阻まれた。常人が着用出来る”ぺら紙”とは素材も厚さも出来も違う。板金の隙間を狙って指を飛ばすような精密さは無い。

 大回しされる矛槍の下、スカーリーフは影の中で、ほぼ四つん這いになって戦った。機械杖を使われないよう、敵の中に飛び込んで剣、手斧を振るって足にも短剣を持って殺戮。滅多打ちを続ければ武器が壊れ、敵から奪ってまた壊れるまで使う。エリクディスの解析で構造を理解した機械杖も時に奪って射撃し、空になったら棍棒にして頭蓋骨を砕いた。

 縦穴の底を掃討後、次は横穴。また大盾を構えたランズヘルが先陣を切って突入。並の馬にも出せない、音だけで勇士も竦む蹄を鳴らして、弾いて踏み潰した。殺し残しはスカーリーフが処理。道は以前より拡張、整理されていて足場が非常に良い。

 狭い横穴で牛トカゲとの正面衝突は危惧される事態だが、ランズヘルの投げ短槍がその分厚い頭蓋骨を一撃で撃ち抜いて、大盾殴りで脇に退かして直進を維持。

 次の短い縦穴、これもランズヘルの三角跳びで着地。スカーリーフは背に乗った。ケンタウロスは容易く背に誰かを乗せない。

 また落下死体、負傷者、無事な者の溜まり場。似た要領で殺戮。陣形を組んだ時の地底人軍は大層な強敵であったが、このような予期せぬ乱戦に持ち込んだならば地上の雑兵と変わらない。

 次に斜路。地底人への対処はそう変わらない。前線から遠い分覚悟が決まっておらず脆いとすら言えた。彼等が火の代わりに照明に使う色魔法の灯りは奇跡で封じられ、見たことも無い姿のランズヘルに潰される。

 遂に地下大空洞の天井裏。地の底と繋がる階段の塔は建設途中。また落下、翼で滑空、荒く着地。空洞を照らしていた魔法の灯りが奥へと向かって消えていく。地底の太陽が生み出す光だけが反射を繰り返して薄明りを作っている。

 涸れ水脈沿いにある建設済みの道路を移動。どれだけ地上に送り込む心算か不明な数の敵兵と牛トカゲと車の列を通りすがりに襲撃。

 地底の太陽の灯りが強くなる。敵からもこちらからも良く周りが見えて来る。

「あっちに寄り道」

「うん? 面白いものでもあるのか」

 協力的なランズヘル、躊躇わずに進路を脇に反れる。その先にはほぼ原形を留めない死体片。空気も心なしか冷たく、地面には融け残りの氷もあった。

「この者は”戦士の館”へ行くに相応しいか?」

 散らばる欠片から極光のもやが広く薄く集まり、濃い一筋になってスカーリーフの内に入る。

「そいつは?」

「サルツァンのルディナス」

「良い心がけだ」

 一度脇に反れた道路に戻る。迂回するような形になったか敵との遭遇も稀になった。

 ほぼ昼間と変わらぬ、しかし青空の代わりに岩盤が見える地に到着。寒々とした暗い岩盤が途切れ、暖かな風が吹き続ける緑の大地。通常、あり得ない。

「このような土地、面妖な。御隠しになられる夜神は……余人に分からぬ御方だったな」

 ランズヘルが少々神学語り。門の祭壇を過ぎて林道を抜ける。

 抜ければ建築様式は単純素朴で、地上とそう変わらない農村と畑に牧場が広がっていた。女子供は逃げ惑わず、訓練された動きで槍を構え、石を投げる。戦乙女は性別はもちろん年齢でも戦士を差別しない。男の首より女の腹という戦いなら特に。

 畑にある中心的な作物は背の高い草の類。果樹程に幹はしっかりしておらず太い茎に見える。

 牧場の家畜は太った飛べない鳥と例の牛トカゲ。当たり前の家畜の獣臭と便臭が漂っていて、不思議な魔法が掛けられている風でもない。

 農村等九つに対して広場が一つ。広場には簡易な工房などが隣接し、売買取引が普段あれば市場に相当するだろう。全て灌漑で区分けがされて疑似的な島になって橋で繋がる。

 地底の太陽の下に広がる土地は広い。また地上で見られるように地平線など、大地の向こう側が巨大な斜面の陰へと消えるということも無い。また所々硫黄泉が湧いているようで腐乱臭もあり、蒸気や滞空する微粒子の影響で視界は良好とはいえない。空気の層が向こう側を霞ませている度合いが強い。

 農村部は一切の起伏を切り開いた様に扁平。鉱山地区と見られるところへ行けば、一部では丘陵地帯が広がっていて、そこからは遠望が可能だった。

 農村部、鉱山部、その先の中心には建造物が密集する都市部があった。都市を中心に見ると放射状に区画が広がっていて計画的に作られていることが分かる。川の流れだとかに沿った形状ではない。

 これが古代都市、知神が言うところのミンルホナ。


■■■


 エリクディスとチビに健全な者達は森の中を一路、地底人軍の斥候部隊と時折交戦しながらサルツァン市を目指して脱出していた。

 魔法使いもしているエリクディスはここで機械杖の使い方を完全に習得し、尚且つ火縄を使用せず、精霊術で着火して鉛球を射撃するという技を使うようになっていた。足手纏いから卒業。既に鉛球と雷薬を筒の先から込める動作も手馴れたもの。

 街道方面では地底人軍が右往左往するような雰囲気で混乱している様が見られた。敵にとって悪いことがあったらしい。戦乙女姉妹の一撃が影響しているとの確信がある。

 この脱出組では、かつて少数だったダンピールが大半を占めるようになった。次に人間、そしてドワーフと比率が下がる。種族の差が出たのは特にドワーフで、少ない食べ物と水で長距離走をするような体質では無く、落伍してしまったのだ。

 チビは肩に座らせているエリクディスに声を掛ける。先程、宿場要塞を通り過ぎてから状況も落ち着いてきたので質問しても良いかと思ったのだ。

「ミンルホナに行かなくて良かったのか? 本を探すんだろ?」

「探索は脅威が無くなった後にゆっくりと、じゃな」

「焼き討ち?」

「むう……ランズヘル殿には言ってあるし、スカちゃんは焼いて回る性分で無かろう」

「返り血?」

「きっと……背表紙は防水に違いない」

「ホントか?」

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