035:ウルを探して
モルデラから観光もせず、中央にとんぼ返りし、そのままハティアの街に向かった。まだ領地に帰って1週間もたっていないのだが、はやる気持ちを抑えられない。
車に乗り込み揺られる事半日以上…… 貴族専用だと言う宿屋に到着した。その中でも、領主のために建てられた建物が奥まった場所にあった。
周りをユリカの木に囲まれ、風情溢れる様式だった。
到着したのも、夕暮れ時だったこともあり、露天いゆっくり浸かったのち、豪華な夕食に舌鼓を打ちその日は早めに就寝することにした。
ベッドかと思い奥に足を進めると、一段高くなっている横開きの、丸い凹みのある扉の前に到着した。恐る恐る開けてみると、スーと滑らかにスライドし、覗き込むと床に、直接 布団が敷いてあった。
よく見ると、足元に1段ほど段差があり、履物をここで脱ぐらしい。中に入り立ち上がってみると、ここの地面はワラを編んだようなものが敷き詰められており、思いのほか癖になりそうだった。
直に敷かれている布団にごろりと横位になって、天井を眺めていると、先ほどまであった眠気が興奮の為かどこかへ行ってしまっていた。魔石ランプの光量をものすごく絞ってあるため、部屋は薄暗いが、木目はハッキリと見えている。それを眺めながら考える――。
あの老人が言っていたことが正しいのなら、ウルは車の元となった金属の開発にも関わっていたのかもしれない。それなら、あの夫婦がウルの事を知らないことがおかしい…。
でも、情報も足りない―― 明日もっと有力な… 手掛かりが出れば… いいんだけど……
気が付くと俺は深い眠りに落ちていた。
朝、疲れを残さずスッキリ目覚めた俺は、さっそく街の役所の役割を果たしている場所へ向かう事にした。街の仲は、専用の大型車両が運行しているため、一般の車両は通行禁止だった。
朝が早かったこともあり、人通りは少ないと思っていたのだが、朝市や、焼き立てのパンなどを求めて観光客で賑わっていた。
歩くたびに、活気のある声に呼び止められる。
「今朝、とれたての玉子だよ‼」
「今焼き立てのパンだ。一つどうだい!」
「そこのお兄さん、饅頭お土産にどうだい。安くしとくよ。」
俺自身は覚えがないのだが、話に聞いていた昔の姿と、比べ物にならないほど大賑わいだった。押し切られる形で、朝食代わりに饅頭とパンを買う。歩きながら食べるなどと、普通の貴族なら眉をひそめるだろうが、騎士学を専攻していた俺にとっては見慣れた光景だった。
表通りから後ろに入った場所にその建物は建っていた。その隣にも同じぐらい立派な建物があり、看板に【ファーブラ商会:ハティア支店】と書いてある。
「おはようございます。本店に御用ですか?」
店先で掃除をしていた従業員だろう人に声をかけられた。
「おはようございます。いえ、隣のニニさんという方に会いに来たのですが…。」
「あぁ、ニニさんならそろそろ来ると思いますよ。良かったら、中でお待ちください。」
通された店舗のソファーはとても座り心地がよかった。しばらくすると、先ほどとは違う人物がお茶を持ってきてくれた。
「ここの支店長になります。マオと申します。間違いでなければ、領主様のお孫様ではありませんか?」
褐色の肌に灰色の頭髪、細身の体躯に柔らかな雰囲気の男性の問いに俺は驚いた。
「領主様とルシアス様にそっくりだったものですから、驚かせてしまいましたね。領主様、ルシアス様にはこの商会が立ち上がった時からお世話になっております。大したおもてなしが出来ず心苦しいですが、よろしくお伝えください。」
そう言って立ち上がろうとした支店長を、俺は慌てて呼び止め、持っていた用紙と一緒に探し人がいることを話した。
「この商会、どういう経緯で立ち上がったのか伺ってもいいですか?」
「かまいませんよ。今からちょうど8年ほど前にこの商会は開設されました。当時、モルデラの町で新しい金属が出来たと言う事で、それを専門で取り扱う商会を建てようと言う事になりまして、私の兄から話が来たのです。」
「お兄さんは、もともと商売をしていた方だったのですか?」
俺がそう尋ねると、
「いえ、兄はもともと要人の警護などをしていました。商売は今まで縁が無かったはずです…。言われてみるとどうして兄から話が来たのか、不思議ですね。」
そういって、自分の前に置いてあるお茶を一口飲み、思案顔になった。もう一つ気になったことを訪ねてみる。
「経験のない商売を一から立ち上げるのは大変だったのではないですか?」
「いえ、共同経営という形で、むかし王都で商売をしていた方と、今は運営しています。私も会頭と登録されていますが、まだまだ勉強中なんです。ファーブラ本店を経営指南をしてくれたブランさんが、ここを私が、モルデラにも支店があるのですが、そこはピンキーさんという方が兼任でしてくれています。」
ここで、モルデラで会ったあのピンキーさんの名前が出てくるとは思わずさらに驚いた。
「指南してくれたブランさんは、昔からのお知り合いだったんですね。」
俺の何気ない一言にマオさんは、
「ちがいます。私達が知り合ったのは8年前です。それも確か兄さんからの紹介だったような気がします…。そういえば兄さんは、どこで知り合ったんでしょうね。」
ウソを言っている感じは全く見受けられないので、マオさんの言っていることは真実なのだろう。それにしてはおかしい。普通、会ったばかりの人間と共同経営なんて怖くてできない。そんなこと、商売をかじった事のない俺ですらわかる。
それなのに、兄からの紹介だけで、ここまでうまくいくはずがない……
しかし、まだパズルのピースが足りていない感覚だ。俺は焦る気持ちを抑えながら、ニニさんが来るのを待った。




