034:神様のいたずら 別視点
本当に、あれでよかったのだろうか……。
10年後の新年の鐘の音をさかいに、自分に関わったすべての人間の記憶から自分の存在を消す。
一人は、自分の記憶を消すことを望み、もう一人は、自分以外の人の記憶を消すことを願った。
でもね、ここからあちらの世界は信じられない位、遠いのだよ。それに、別の神の管轄だから、思い通りに行っているか確かめる術もないんだよね。
ほら、縫い物だって結び目が甘いと、ほつれちゃうよね。そんなこともあるよね♪
~王立魔法学園卒業式~
卒業生代表、エンリル=プリモール
「今日の良き日に私達、183名はこの学園を旅立ちます。~中略~これを持ちまして、卒業のあいさつとさせていただきます。卒業生代表エンリル=プリモール」
家の都合で王都に越して、学園に通い今日は待ちに待った卒業の日だった。あれから13年――
領地は目覚ましい発展をしたらしいが、実は王都に越してから、父以外一度も領地に帰っていない。一つは母様の体調だった。
子供が生まれて、少し体調を崩し、回復したかと思ったら懐妊を繰り返していたので、タイミングが合わなかった。それから、これは俺の都合なのだが、魔法学と同時並行で、騎士学もとっていたので、学院生活が学年が上がるごとに驚くほど多忙になった。
しかし、そのお陰か身長はメキメキ伸び186㎝。剣術の腕もそれなりになり、騎士団長から直々に声もかかったほどだ。だが俺は早く領地に帰りたくて断った。会いたくて会いたくて、仕方ない人物が待っている。
あの頃はまだ子どもで、何故おじい様とお父様とあんなに親しかったのか理解できなかったので、帰ったら尋ねようと決めていた。
今、領地に帰るために乗っているこの車という乗り物だって、実は彼の功績により実現したものだと、まだ小さかったとき、たまたまトイレに起きた俺に、お父様がほろ酔い気分で話してくれた。
恥ずかしいから、別の人物の名前で発表したとも言っていたな…。
今回はお祝いと言う事で13年ぶりに家族みんなで領地に帰った。車から降りた俺の目に飛び込んできたのは、もう自分が知っている、領地の姿はどこにもなかった。
領内には車が通る専用の道を整備し、人が通るための専用レーンも完備されていた。観光用に最大30人ほどが乗れる大きな車もあった。
城から右手側には白い煙が立ち上ってる場所があった。
「お父様、あそこは火事ですか?」
「あそこはハティアの街だ。あの煙は、温泉の湯気だよ。心配はいらない。今日は無理だが、家族で入りに行こう。専用の宿泊施設を作っているんだ。」
「はい。とても楽しみです。」
「エンリル、先に部屋に案内してもらいなさい。ロベルト。」
「はい、それではエンリル様、こちらへどうぞ。」
むかしは、見上げるほど大きかったロベルトも今では俺の方が大きくなってしまった。
「エンリル様、本当に大きくなられましたね。旦那様より高くなるとは思いませんでした。」
目を細めて眩しそうに俺の事を見るロベルトの姿に、流れた歳月を感じた。
案内されながら、俺はロベルトの背中に、先ほどから疑問に思っていたことを聞いてみた。
「ロベルト、ウルはどこにいるんだ? おじい様が玄関で出迎えてくれた時、一緒に来るかと思っていたんだけど、見当たらなくて… どこか出かけてるのか?」
案内するため俺の前を歩いていたロベルトが、立ち止まり俺の方を向いて衝撃の言葉を発した。
「エンリル様、申し訳ございませんが、この屋敷にウル様という方はいらっしゃいません。どちら様でしょうか?」
ウソでも冗談でもなく、ロベルトは自分の記憶をたどるが、そのような者はいないと言う…。
今度は、俺の方が愕然とする番だった。それから部屋に通されたが、しばらくソファーに腰かけボーッとしていた。
いや、ウルは絶対この家にいた。確かに当時5才だったが、鮮明に覚えている。それから、お父様、おじい様、お母様、屋敷の古参の使用人に聞いて回った。
「当時の俺から見て、このくらいの身長だったから、165㎝ぐらいか… 髪色は薄いピンクで、前下がりのボブスタイル。瞳の色は赤茶色―― ダルアと俺と屋敷にいるときは遊んでくれていた。俺がダルアに順番を譲ると、頭を撫でて褒めてくれた。」
屋敷中の人間に聞くのに、誰一人として知っている者はいなかった。
ダルアも覚えていないと言う…。あんなに親しくしていたお父様も、おじい様も知らないと言う。
「お父様、昔酒を飲みながら俺に、車が出来たのはあいつのおかげだと言っていたのを覚えてませんか?」
「忘れてしまったよ。そんなこと言っていたか?」
「それでは、車の開発をした人に会わせてください。」
こうして俺は、車を開発した人物に会いに行くこととなった。
次の日、朝一で出発してお昼前にはモルデラの町についた。ここは今、車の生産工場地帯になっている。
その町の一番奥まったところに、そのラボはあった。元は古びた洋館だったものを、増築を繰り返したのか新しい建物と古い建物が混在している。
呼び鈴らしきものがあったので押してみる。しばらくすると、奥から玄関に向かって走ってくる音がする。
「はッ、はい、どっ、どちら様ですかっ?」
「今朝、手紙鳥を送りました。エンリル=プリモールと申します。」
「あッ、あっ、どッ、どうぞ、おッ、お入りくだしゃ… さい…。」
あっ、噛んだ。女性は顔を真っ赤にしながら俺を中に入れてくれた。応接室に通され、少しお待ちくださいと彼女は去っていった。しばらくすると、一人の男性と一緒に返ってきた。
「こんにちは~、ピンキーです~。ボクが~、車の~製造に~関わる~責任者です~。よろしくね~」
「あッ、あの、あのッ、こっ、こんな感じの人、ですが、ちゃんと、だっ、大丈夫ですから。あっ、つッ妻のドロテアと言いますっ。」
2人は夫婦だったらしい。
「お2人にお聞きしたいことがあってきたんです。こんな特徴の、ウルという名前の人物を知りませんか。」
俺は、屋敷に居た絵の上手い使用人にお願いして、俺の記憶に近い似顔絵を作成してもらった。
「う~ん… わからないや~。」
「わっ、私も…、ごめんなさいッ。」
そんなにすぐ手掛かりがあるとも思ってなかったが、落ち込んでしまった。俺が肩を落としてると、
「ニニ達に~聞けば~何か知ってるかも~。」
俺の顔に? が見えたのだろう。奥さんが、住所と手紙鳥で先に連絡をしてくれることとなった。
「おっ、お役にたてなくてッ、ごめんなさいッ」
「いえ、ありがとうございました。次はこちらに行ってみますので、」
俺はそう言って、研究所を後にした。表に待たせていた車に乗り込む寸前、遮るもののない通りだったので、強風が吹き抜けて、手に持ていた似顔絵が風に飛ばされた。慌てて追いかけると、近くで散歩でもしていたのだろうご老人が拾ってくれた。
「あッ、ありがとうございました。」
「ここら辺は、時々 突風が吹くから気をつけなよ。それにしても、その似顔絵よくできてるね。むかしここらを、ちょろちょろしてたお嬢ちゃんだろう。それ?」
「えッ‼ 知ってるんですか?」
「話したことはないけど、遠目に見たことあるよ。研究の手伝いか何かしてた子だろ。気が付いたら見なくなったからね。」
「どのくらい前から見なくなったかわかりますか?」
「う~ん… 3年前か4年前か… 5年は経ってないと思うけどね…。」
「ありがとうございました。」
俺はおじいさんに別れを告げて、次の目的地へ向かう事にした。




