99:帰ってきた勇者様
「勇者様、勇者様なんだね。ああ、もうっ」
叫びながら、ダームはドレスなんてお構いなしで蹴りを放っていた。
それが見事勇者の肩ら辺に命中し、呻きながら彼がよろめく。「なんだよ」と怒った顔のカレジャスを、ダームは睨み返した。
「勝手に出て行って、心配したじゃない! もう二度と会えないんじゃないかってそう思って、どれくらい泣いたと思ってるの!?」
「わ、悪い」
「悪いじゃないよ、もうもうもうもうっ!」
すっかり夢中になってしまったが、目の前で新婦が男といちゃつく様子を見せられた他の参加者たちは、口をポカンと開けていた。
いけない、そう思ってステージに駆け戻ろうとするダームをカレジャスが引き止める。
「待て。俺はな、渡したい物があってここまで戻って来たんだよ。受け取ってくれねえか」
「渡したい物?」
首を傾げる少女に、青年が差し出した物は。
「北の国に咲く、永遠に枯れないって噂の伝説の花だぜ。ほらよ」
金、赤、白、黄色……。
色とりどりの花が差し込まれた花束だった。永遠に枯れないという言葉に、ダームは驚きを隠せない。
「これ、くれるの?」
「当たり前だろ。わざわざ持ってきてやったんだから大事にしろよ。これが俺からお前らへの、祝いの気持ちだ」
花束を手に取り、そっと顔を近づけてみる。
漂ってくる甘い香りは、あの朝の夢を思い出させた。
「勇者様はやっぱり、あたしの憧れの人だよ。……ありがとう」
* * * * * * * * * * * * * * *
その後はかなりゴタゴタしたのだが、割愛しよう。
ひとしきり落ち着くと、愛の誓いが再開された。
先ほど言えなかった言葉、それを今度こそ。
「父様に、母様に、戦士さん、魔術師さん、それから大好きな勇者様に誓うよ。あたしは僧侶くんと結ばれて、ずっとずぅっと一緒になります!」
言うが早いか花婿と思い切り抱き合って、初めてのキスを交わす。
柔らかい唇と唇が触れ合う感触は、とろけそうなほどに甘かった。
「僧侶くん、愛してるよ」
「――嬉しいです」
好きだった人の前で、好きな人と愛し合う。
少し不思議な気持ちだなあと思いながら、深く、深く愛を味わう。
参加者たちからは、嵐のような拍手が巻き起こった。
「おめでとうダーム」
「やはりうちの娘は最高だ」
「メンヒ、ダーム、二人ともおめでとう」
そして、
「幸せになれよ」
立ち去る勇者の姿を、そっと見つめる。
また今度、いつ会えるのだろうか。そう思いながらダームは、にっこりと微笑んだ。
「またね、勇者様。あたし絶対に幸せになるから」