98:愛の誓い
「――今日は皆さん、お集まりいただきありがとうございました。では、今から誓いを行います」
メンヒがそう、口を開いた。
結婚式で言う司会者役だ。同時に新郎役でもあるのだけれど。
「木に、花に、風に、天に、地に、この世のあらゆるものに誓います。僕はダーム殿を愛しています。そしてその愛は、永遠に変わらないでしょう」
手を握る力が一層強くなった気がする。
ダームも負けじと握り返す。
まっすぐに向けられる皆の視線は、期待の色が濃い。
それを見ながら、ダームはゆっくりと息を吸った。
今この瞬間が新たな物語の始まりになる。
戦いも魔法も復讐もないけれど、静かで楽しい人生の物語。
その幕開けを宣言すべく、この胸の愛を、言葉に乗せて伝えよう。
「あたしも、あたしも誓う。父様に、母様に、それから――」
しかし、その先に続くはずだった言葉は、突然の衝撃に遮られることになる。
会場の窓に突然亀裂が生じ、物凄い速さで外から何者かが飛び込んできたのだ。
「きゃっ」悲鳴が上がる。
公爵夫妻は咄嗟に身を寄せ合い、マーゴは魔法を展開した。
そしてダームはというと、身を固くすることしかできない。
飛び入り参加者は、猛ダッシュでダームの元へ。
ステージのすぐ下まで駆けつけると、言った。
「……ダーム、待たせたな」
え、と喉から声が漏れ出す。
幻聴かと思った。だって、だって。
「勇者、様?」
低くて魅力的な声、腰に差した剣、金色の鎧兜。
間違いなく、ダームがここ一ヶ月毎日会いたいと思い続けていた青年が、そこに立っていた。




