97:緊張
そしていよいよやって来た、結婚パーティー当日。
控え室で花嫁衣装に着替えるダームの胸中は、嬉しいやら何やらでごった返していた。
「落ち着け。落ち着けあたし。大きく息を吸って、吐いて……。うん大丈夫。落ち着いた」
そう呟いて鏡を見てみると、そこには可憐な女性が佇んでいる。
白い花嫁ドレスを纏う彼女は、輝く金の髪を背に流し、頭に白いリボンを揺らめかせていた。
「よく似合ってるわ」着付けをしてくれたマーゴがそう言ってくれた。
「本当。まるで自分じゃないみたい」
「自信を持って。これがあなた。あなた、とっても素敵よ」
鏡の中の自分の頬に紅が差すのを見て、ダームは思わず顔を背けた。
そしてふと時計に目をやると……。
「うわっ。もうこんな時間だ、急がなきゃ!」
着付けに時間がかかったせいか、パーティーの時間ギリギリになっていた。
「ありがとう! あたし行ってくるね」
「行ってらっしゃい。私もまもなく行くわ」
* * * * * * * * * * * * * * *
パーティー会場となる、ホールの扉の前まで辿り着いた。
走ったせいで多少着崩れてしまっているが、簡単に直せば大丈夫だ。この向こうにメンヒが待っているのだろうか。
「――――」
ダームは、今この上なく緊張していた。
人生に一度の晴れ舞台、失敗しないだろうか。また恥ずかしい行いをしてしまわないだろうか。
変な汗が背中を滝のように流れていく。
「た、躊躇ってても仕方ないっ。行きます!」
声が上ずるのも構わずに、思い切ってダームは扉を開け放った。
眩い光に照らされたホールの中、そこには大きなテーブルや椅子が並べられている。
そしてそこに二つの人影があった。
「か、母様、父様。久しぶり!」
王国からはるばるやってきた両親に声をかける。するとすぐさま彼らがこちらを振り返った。
「おおダーム! すっかり立派になったなあ」
「まあ素敵っ」
二人ともすっかり喜んでいる様子だ。
「それほどでもないよ〜」
そう笑いながら、ダームは会場を見回す。
しかしどうやらメンヒはまだ入場していない様子だ。椅子にでも座って待とうと考えていると、
「お待たせしました」
聞き慣れた少年の声がし、今しがた入ってきたばかりの扉が再び開いた。
そして現れた彼の姿に、ダームは目を奪われる。
「僧侶くんすごい……」
てっきり礼服など着てくるものだろうと思っていたから、白に金のあしらいの法衣には驚いた。
さすが僧侶、という感じである。後で聞いたところによると、「礼服は僕には着こなせないので着慣れている法衣でお願いしました」とのこと。
「ダーム殿の方こそ、ドレスが素晴らしいです」
「うん、そうでしょ? あ、魔術師さんも来たよ」
その時ちょうどマーゴも姿を現した。
彼女は「メンヒもいい感じね」と言いながら、ゆっくりと椅子に腰掛ける。
「さあ、新郎新婦は奥のステージに行ってちょうだい。その後は、わかってるわね?」
「もちろんです」
「わかってるよ」
「頑張れ」と父親の声がし、ダームの体に力がみなぎる。
もう緊張はすっかり解けてしまっていた。後はやり切るだけだ。
ホールの奥、簡易に取り付けられたステージに上がる。
ダームとメンヒは、ぎゅっと手を繋いだ。今から、始まるのだ。




