95:別れの時
「そうか。まったく、腕白息子だな」
赤い髭を捻り、皇帝はため息まじりにそう言った。
カレジャスがいないと知ってすぐ、皇帝に事情を話すことになった。そして説明を終え、冒頭の一言が発せられたというわけだ。
「捜索しなくていいのですか」
「あやつは放っておいてもどうにかなるだろう。魔王と戦うわけではないのだ、任せておけばよい」
確かに、皇帝の言う通りかも知れないなとダームは思う。
けれど本当に大丈夫だろうか。昨夜の、必死に涙を堪えるカレジャスの顔が浮かんだ。
彼は、ダームのせいで出ていった。しかしそれが彼自身の決定であり、だから揺るがせるものではない。
「もう、会えないのかな……」
口の中だけで呟いた言葉は、誰にも届かず消えていく。
彼女は強く強く、歯を食いしばった。
* * * * * * * * * * * * * * *
その日のうちに、ダームとメンヒは荷物をまとめていた。
この城に長居しても悪いので、早々に立ち去るつもりなのだ。
一方クリーガァはというと元々帝国戦士であるため、城に残ることになった。
「ダーム嬢と離れるのは、少し寂しいような気がするな!」
「そうだね。戦士さん、今までありがとう。戦士さんのおかげであたし、料理作れるようになったよ」
そんなことを言いながら、帝城の外で向かい合う。
とっくに皇帝との別れを済ませ、今から城を出ていくところだ。最後にクリーガァが見送りに出てくれていた。
「クリーガァ殿。誠にありがとうございました。ダーム殿は、僕にお任せください」
「ああ、そうするとも! メンヒくん、頼んだぞ! では私はこれで!」
「うん。戦士さん、じゃあね」
帝城に背を向け、手を繋いだ二人の少年少女が歩き出す。
彼とこんな風に歩いたのはこれが初めてで、なんだか胸がバクバク鳴っている。そんなダームへ、背後から大声がかかった。
「実は私もダーム嬢のことが好きだった! それだけは忘れないでくれ!」
振り返ると、大男がニコニコしながら手を振っている。
ダームは思い切り手を振り返した。
「好き、だってさ。もしかすると戦士さんもあたしに恋してたのかな?」
「かも知れませんね。そうなるとダーム殿はパーティーメンバー全員に惚れられていたことになりますが」
「ほんとだ。それってなかなかすごいことだね」
思わず噴き出し、そのままメンヒと一緒に笑った。




