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93/100

93:夢の中で

 ……ここはどこだろう?


 一面、緑が生い茂る場所だ。森だろうか?


「誰かー? 誰かいないのー?」


 呼びながら、ダームは森の中を進む。

 と、突然、変な声がした。


「シャーッ」


 振り返ると、そこには大蛇の姿が。

 咄嗟に魔法を放とうとするが、びっくりしてしまい動けない。そこへ、人影が現れた。


「おい。大丈夫かよ?」


 次の瞬間、大蛇が真っ二つになって消え失せる。

 そして代わりに顔を覗かせたのは――。


「勇者様っ」


 ダームはやっと気づいた。ここが、彼と初めて出会ったあの森なのだと。


「ったく危ねえなあ。一人で森に入るなって言っただろうが」


「ごめ〜ん」


 そう言って、少女は勇者の方へと駆けた。

 そのまま飛びつき、彼の体を抱きしめる。今、彼はゴツゴツした鎧姿ではなく、小綺麗な礼服を纏っていた。

 直に伝わってくる温もり。ダームはそれを全身に味わう。


「無事でよかったな。今度から気をつけろよ?」


「わかった。ありがとう」


 見れば、カレジャスの顔はすぐそこにあった。

 まっすぐに見下ろされて、ダームの頬が赤くなる。胸がドキドキした。


「大好き……」


 思わず口から漏れる呟き。

 それが聞こえたのか聞こえていないのか、カレジャスはただでさえ近い顔をさらにこちらへ近づけてくる。そして、唇を突き出した。


 ダームは彼が何をしようとしているのか、すぐにわかった。

 彼が望むなら、受け入れてしまおう。

 そう思い、彼女もゆっくり口をすぼめた。


 二人の唇が接近する。このまま、口づけを――。


 しかし、そうはならなかった。


「やめようぜ、こんなこと」


 突き出されていた唇が、固く閉じられる。

 それに激突し、少し驚いてダームは見上げた。そこには、首を振るカレジャスの姿がある。


「どうして」


「お前の体は奪わねえ。俺の他に、愛おしいやつがいるんだろ?」


 言われてダームは思い出した。


 そうだ、そうだった。あたしには、愛する人がもう一人いる。

 そっと顔を背けた。あたしはなんて馬鹿だったんだろう、そんなことを思いながら。


 しかし顎を掴まれ、顔を引き戻された。再びカレジャスと向き合わされる。

 戸惑う少女に、勇者はそっと語りかける。


「お前が俺を選ばなかったとしても、俺はお前が好きだよ。心の底から愛してる。……だからお前は、お前のままでいろ」


 言われて、ダームは身動きが取れなくなった。

 真剣すぎる青の瞳に魅入られる。彼女は、ああ、やはり好きだと強く、改めて恋情を抱く。


 言うべき言葉はただ一つだった。


「うん……。勇者様も。ずっとずっと、勇者様はあたしの憧れの人でいて……」


 例え結ばれることが叶わないとしても、ダームの恋心は薄れることがないのだから。


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