92;「お前がそう決めたなら」
「お前がそう決めたなら、俺は構わねえよ」
静かな声音で、カレジャスは言った。
「そう。……ありがとう」
今自分が彼に対してどんなにひどいことを言っているか、それは自覚しているつもりだ。
それでも言わなければならなかった。そして勇者も、受け入れなくてはならなかった。それだけの話だ。
「こんな時間に付き合わせて悪かったな。ありがとよ」
「うん」
出ていけと、言外に言われているのがわかって、ダームは頷いた。
いつもは凛々しい碧眼が潤んでいる。きっと彼自身は隠しているつもりなのだろうけれど、全然隠し切れていない。
今はお互いに一人になる、それが一番だった。
「お邪魔しました。また明日ね」
そう言って立ち上がり、ダームはそっと部屋を後にする。
最後にカレジャスが「じゃあな」と言った声が、なんだか遠く聞こえた。
* * * * * * * * * * * * * * *
あんなにも眠かったはずなのに、なかなか寝つけない。
今頃カレジャスはどんな気持ちでいるのだろう。……彼の涙だけは、見たくないな。
そんなことを思いながらダームは、どこか寂しさを感じていた。
今まで恋焦がれて止まなかったカレジャスと、少し距離ができてしまった気がして。
「……勝手だよね、あたし」
でももう終わったことだ。全部、終わったことだ。
明日どんな顔をしてカレジャスと会えばいいだろう。気が重い。
「謝った方がいいのかな」
メンヒにもこのことを伝えなくてはいけない。さて、どうしようか……。
今さらのように湧き上がる疑問。
「本当にあの答えで、良かったのかな?」
ぐるぐるぐるぐる、同じ考えが繰り返し頭の中を駆け巡る。
正しかったのか、そんなことはわからない。でもあの答えしかなかったのだと自分を納得させるしかないではないか。
深い深い思考にまどろんでいく。ダームの意識はいつの間にか、夢の世界に沈んでいった。