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89:究極の選択

 ――思い出す。


『あ、ありがとう。えと、あなたは?』


『会って突然名前を聞くとか、どんな教育受けてんだよ。ったくもう躾がなってねえな』


 ――思い出す。


『……さっき助けてくれたこと、ほんとに感謝してる。ねえねえ、あなたは何のために旅をしてるの?』


『ふらふらと。でも言うなれば――、俺が、勇者だからだな』


『ゆ、うしゃ?』


『そう勇者。よそもんだったらあんまし効かねえかもだが、南の帝国ではそれなりに有名なんだぜ、勇者って』


『それがあなたってこと? じゃあ英雄じゃん!』


『そうそう。まだ英雄にはなれてねえけど、それも時間の問題だろうな。あーあ、勇者ってのも楽じゃないぜ』


『本物の勇者様なんだね! すごい!』


 ――思い出す。


『ふっふっふ。実は、ティータイムと洒落込もうと思ってね』


『ティータイムって何のことだよ?』


『ティータイムだよティータイム。もしかして知らないの? 簡単に言えばお茶会のこと』


『ああ、茶会か。で、その茶会してどうするつもりなんだ?」


『別に……。どうもしないけどさ、お花畑でティータイムって夢があると思わない? あたし、一度でいいからやってみたかったことの一つなんだよね』


 ――思い出す。


『それは、あたしが勇者様を好きだってこと!』


『この想い、受け取ってくれるかな?』


『つまり、お前俺に告ってるってことでいいんだよな?』


『そういうこと。真っ白な雪の中、山小屋で二人きりの告白。なんか夢があるじゃない』


『ありがとうよ。返事はまだはっきりとは言えねえ。でも俺のことを好きって言ってくれたのは正直ちっとばかし嬉しかった。……そんなこと言われたことなかったんでな』


 脳裏に蘇る、カレジャスと過ごした日々、交わした言葉の数々。


 そして次に湧き上がるのは、メンヒとの記憶たちだ。


 ――思い出す。


『あたしはダーム。勇者様に助けられたんだ』


「僕はメンヒ。しがない僧侶をやっております』


『僧侶くん、よろしく!』


 ――思い出す。


「僧侶くん、自分は凡才だって、能なしなんだって言ったじゃん。でもあたしはそうは思わないなー。だって、僧侶くん頭いいもん。みんな僧侶くんのおかげで、色々助かってるんだよ』


『そんなことは……』


『――認めてあげなよ。自分はすごい人間なんだって』


 ――思い出す。


『決まっています。それは僕が、ダーム殿に救われたからです』


『すく、われた? あれで救われたっていうなら、あたしは嬉しいよ。でも……』


『危なくたって構いません。僕は、ダーム殿の力になりたい』


『それって、恩返しってこと?』


『違います。――僕はダーム殿に恋してしまったんです』



* * * * * * * * * * * * * * *



 全てが過ぎ去った後、ダームの胸にもう迷いはなかった。


 究極の決断、その答えは決まった。


 唇が震えた。ドキドキと鼓動がうるさい。大きく息を吸って吐いてを繰り返し、ようやく落ち着くと、ダームは前を向く。


 すぐそこにカレジャスの顔がある。じっと彼を見つめ返した。


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