87:呼び出し
……しかしその直後、ノックの音でダームは飛び起きることになる。
「コンコンコン」と控えめな音が響く。重い瞼をなんとか押し上げて、よろよろとドアの方へ向かった。
「誰……? あたし眠いんだけど――」
そう言いながら扉を開け放ったダームは、直後目を見開いた。
だってそこに立っていたのは。
「勇者様!? どうしてこんな時間に!」
しかし声が大きかったせいだろう、慌てて口を塞がれる。
「静かにしろよ。もうクリーガァーもメンヒも寝てるぞ」
「……モゴモゴ。そっか、ごめん」
ところで彼は何をしに来たのだろう? ダームはそう思い、大きく首を傾げる。
そんな彼女へカレジャスはこう言った。
「話がしたくてな。ちょっと俺の部屋にでも来てくれねえか?」
「いいけど……。あたしの部屋じゃダメなの?」
「女子の部屋だぞ? そりゃダメだろ、色々と」
何がダメなのかよくわからない。
別に散らかっているわけでもないので、わざわざ彼の部屋に行く必要もないだろうと思った。でもカレジャスが嫌そうだったのでやめることにする。
眠たい体に鞭打って部屋を出て、カレジャスに先導されるまま廊下を進む。
そして勇者は、三つ隣の部屋を開けた。
「ここだぜ。真夜中に男の部屋に連れ込んで悪い」
「別に。ちょっと眠たいけど……」
「今日は、色々と疲れたもんな」
「そうだね」と答えながら、ダームはぐるりと部屋を見渡す。
カレジャスの部屋は、ベッドが一つ置かれているだけで後は何も見当たらない。女のように化粧したりしないのだから当然か。
ベッドをすすめられたので、遠慮なく腰掛ける。カレジャスもその隣に座った。
「勇者様、話って何?」
単刀直入に訊いてみた。
するとカレジャスは、何か覚悟したような表情をする。そして――。
「約束を果たそうぜ」
こんなことを言い出したのだった。




