82:ご褒美は?
カレジャスがこの国の皇子だったなんて、寝耳に水にもほどがあった。
今までダームは、彼をただの勇者としてしか認識していなかった。いや、皇子だとわかる人間はきっといないだろう。
言動からは言っては悪いが気品は感じられないのだ。でも考えてみれば、彼の出身が不明であったことを今思い出した。
それに、皇帝と目と髪の色が同じだ。間違いない。
「えぇぇ……」
最初のショックが収まると、ダームはカレジャスの頬に一発平手打ちをかます。
「痛ぇ」と心外そうな目を向けてくる彼に、ダームは腰に手を当てて怒る。
「大事なことはちゃんと言わなきゃダメでしょ。あたし、そんなことも知らされないでいたなんて……」
「悪い悪い。完全なポカだよ」
全く悪びれないカレジャスを見て、ダームは半ば諦めた。
「もぅっ、ポカで済ませないでよね! ええと、なんて呼んだらいい? 皇子様って言った方がよかったり?」
「いや、今までのでいい。皇子って呼ばれるのはあんまり好きじゃねえんだ」
「了解。ほんとに勇者様は勝手なんだから」
クリーガァ、メンヒ、皇帝はそれぞれ生暖かい目でそのやり取りを眺めていた。
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そんなこんなありつつも、カレジャスから皇帝への旅の話は無事に済んだ。
「ご苦労。様々なことがあったのだな」
「そりゃあ当然。何度も何度も死にかけたんだ、せめて褒美くらいくれるよな?」
「無論だ」
褒美。
その言葉を聞いて、ダームの胸がまた高鳴った。
「僧侶くん、ご褒美は何か知ってる?」
そっと耳打ちしたが、どうやらメンヒも知らないらしく首を振る。
完全なるサプライズ、そのご褒美とは?
「余に与えられるものは少ない。よって、褒美は「この場の全員の帝国での自由な暮らし』を確約すること、とする」
一瞬、場が静まった。
てっきり豪華な金銀財宝でももらえるのかと思っていたダームたちは、なんというか、耳を疑ったわけである。
もちろん贅沢を言ってはいけないが、
「あんまりにもしょぼすぎるだろ、それ」
カレジャスの言葉が、この場の者たちの総意だったに違いない。
でも皇帝はかぶりを振った。
「考えてもみよ。この国、いや世界を救った英雄たるそなたらは、帝国での安寧を築ける。この先どうやって生きていくのかはそなたら次第だが、帝国はそなたらのいかなる要望も受け入れようというのだ。悪くはあるまい?」
つまり何かと援助してくれるということだ。
「まあ確かに、しょぼくはあるけど悪くはないかも」
「なら、私も賛成だな!」
ダームとクリーガァはそれぞれ納得し、カレジャスは仕方ないかという風に肩をすくめる。
そしてメンヒが皇帝へと頭を垂れた。
「皇帝殿、ありがたく受け取らせて頂きます」
「そうするがいい」
そうしてなんだか実感のないご褒美をもらったあと、一同は帝王の間を出ることに。
城の使用人に「晩餐会までの時間、おめかしをなさってください」との言葉を受け、ダームたちはそれぞれあてがわれた部屋へと入った。




