78:ポンコツ大魔王をやっつけろ!②
氷の壁を突き破って魔球が飛んでくる……ことはなかった。
「へ?」
拍子抜けして思わず声を漏らす。
パッと飛び起き、周囲を見回す。仲間三人の全ての無事を確認できた。
「何があったんだこりゃ」
先ほど突き飛ばされた勇者が立ち上がり、そんな風に呟いた。
あれほど巨大な魔球だ、何もないで済むわけがない。いくらぶ厚い氷壁であろうともそれに耐えられるとはダームも思えない。
「どういうこと?」
しかしその原因はすぐにわかった。
「ぐあぁぁ。何故極大魔球が消えてしまったのであるか!? そうか、魔力切れであるか! 魔力切れ、魔力切れ。ぐぬぬぬぬっ」
先ほどまで小さな闇の球を連発し続けてしまったおかげで、いざ大きなものを生成しようとした時に魔力不足に陥ったようだ。
「こうなればこちらの勝ちも同然だな!」
「だね」
どこかから走り戻ってきた戦士に頷き、魔法使いは氷壁を剥がす。
困惑する魔王。その体からはすでに赤みが消え去り、漆黒になっていた。
「今のうちに一斉攻撃するぞ」と勇者。
「了解。ポンコツ魔王をやっつけちゃおう!」
* * * * * * * * * * * * * * *
数の暴力は強い。
カレジャスは剣と雷、クリーガァは素手の拳、ダームは残る魔力を振り絞って戦い、それぞれ活躍。
極小の魔球しか扱えない魔王にはそれらに争う術はなかった。
「トドメだよ、『ファイアーΩ』!」
最大級の火球が突如出現し、魔王を襲う。
燃え盛る炎に焼き焦がされた魔王が苦鳴を上げ、玉座から崩れ落ちた。
「がぁっ。ぐおっ。……終われないっ、人間を滅ぼし地上を我が魔族の手にするまではぁぁぁぁ、終わることなど許されないであるぅぅぅぅぅ」
みじめに泣きじゃくり身悶える魔王を、ダームは少し不憫に思う。
しかしこれも因果応報というものだ。悪人は、必ず裁かれなければならない。
「お前にはもう終わる道しか残されてねえよ、魔王。……大人しく死にな」
魔王の胸を銀色の剣が貫く。
その瞬間、耳をつん裂くような絶叫が上がった。




