76:裁きは下される――ざまぁ見ろ
――『氷炎の風』。
これはダームが編み出した独自の魔法だ。
それぞれの属性のΩ級魔法を繋ぎ合わせ、一つのものにする。そして一気に放ったのだ。
目も開けられないほどの暴風が止んだあと、前方を見やるとそこには倒れる人影があった。
言うまでもなくプリンツ王子だ。
炎に焼かれ、氷で貫かれ、風に揉まれて彼はぐちゃぐちゃだった。
顔の皮が剥がれ落ち、腕が変な方向に捻じ曲がっている。骨も十本では済まないくらいに折れただろう。
そんな醜態と化した王子が顔をもたげ、ぎろりと灰色の目でこちらを睨んだ。
「よ、くも。なんで……、なんでこの私がっ。私は、私は……」
手を伸ばし、こちらに縋ろうとする。
ダームは金髪を揺らして首を振り、「届かないよ」と言って嗤った。
「なんで? わかってるでしょ、裁きが下されたの。――ざまぁ見ろ、だよ」
直後、再びプリンツの体を炎で焼き尽くす。
高い絶叫が上がり、火が消えた頃には、もはや灰しか残っていなかった。
やったのだ。公爵令嬢ダーム・コールマンはプリンツ王子を、下したのだ。
安堵の笑みが漏れ、彼女は崩れるように座り込んだ。
* * * * * * * * * * * * * * *
「おい、無事か?」
ぐったりと座り込むダームの背後、そんな声が聞こえた。
振り返るとそこには恋しい人の顔。カレジャスがこちらを見つめていた。
「うん……。決着はつけたよ」
「そうか。ならいい」
勇者の手足を縛っていた黒い蛇のようなものは解かれ、彼は自由になったようだ。
彼はその解放された両手で、突然、少女の肩を抱きしめた。
「きゃっ」
思わず小さな悲鳴が漏れる。
それにお構いなしで、カレジャスはダームを深く包み込んだ。
「悪かった、勝手に飛び出したりして。もしお前らが……、お前が来てくれなかったら俺は死んでた。ありがとうよ」
「ううん。あたしの方こそごめんね、ついて来ちゃって」
疲れ切った体が、カレジャスの体温に温められていく。その温もりがとても気持ちよかった。
「お前が謝ることじゃねえよ。俺はずっと、お前に会いたいと思ってたんだぜ」
――なんて優しいんだろう。やっぱり好きだ。
色々なことがあった。それでもどうしても、カレジャスのことが好きで好きで仕方ない。
改めてその気持ちをぎゅっと噛み締めるのだった。




