74:仕切り直し
カレジャスは溢れた涙を床に顔を擦り付けて拭う。
心から本当に嬉しい。もう会えないと、そう思っていたから。
「ダーム」
口の中だけで彼女の名前を呼ぶ。
そして顔をあげ、少女の輝かしい笑顔を見た。
「来てくれた……のかよ」
「当たり前じゃない」と魔法使いの少女は言った。
「まったく、勇者様は仕方ない人なんだから」
――ああ、可愛いな。
カレジャスは場違いな感情を抱いたのだった。
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「来てくれた……のかよ」
こちらを見上げるカレジャスの問いに、ダームはこくりと頷いた。
「当たり前じゃない。まったく、勇者様は仕のない人なんだから」
本当に、無事でよかった。
そう思いながら彼女は、こうしてはいられないと魔物たちの方へ向き直った。
二つの影がある。
一つは、ツノが生えた黒い大岩のような化け物。あれが魔王だろうとすぐピンときた。そして――。
「……っ」
驚きに声を失った。
美しい白髪、灰色の瞳。
そこに立っていたのは、見慣れた憎き男の姿。
ついこの前復讐を果たし、二度と会うことがないと思っていた青年。彼が、目の前にいる。
「あなたがどうしてここにいるんです」
カレジャスの拘束を解いていたメンヒが、珍しく厳しい声を上げる。
「私のことか? 話せば長くなる、死にゆく君たちに私の言葉を与えてやる必要もない」
「そうですか。それは失礼」
僧侶はこれ以上の会話を諦めたようだった。
ダームの胸の中で、何かムラムラした感情が膨らみ出す。
しかし彼女はそれを振り払うように明るい声で言った。
「よし、仕切り直しだよ! 戦士さんは魔王の方をお願い、腹黒王子はあたしに任せて!」




