71:腹黒王子
魔王の手から姫を奪い取る。少女の体が、カレジャスの胸に収まった。
雷の光が消えていく。
その中でカレジャスは、少女を抱えたままで言った。
「大丈夫か?」
「ええ、大丈夫ですわー。助けて頂きありがとうございまーす」
「いやに気に触る口調だなおい。ちっ」
本当に姫なのか? などと思いつつ、姫を胸の中から離すと、黒い穴の方を指差した。
「お前はここを潜って外で待ってろ」
「でも〜、外には悪魔ちゃんがいますわー。とっても出ていける状況じゃないぞ」
「今一瞬変な喋り方しなかったか?」
「気のせいですわー」
そんなやりとりをしつつ周囲を警戒。
確かに外は悪魔だらけだろう。これだけ騒ぎになっているなら当然だ。
ではどこに姫を隠したら。
――その時だった。
「油断したな」
ぎゅっと、体が縛りつけられるような衝撃が走った。
驚き、自分の手腕を見たカレジャスは「あっ」となる。そこに黒い『何か』が巻きついていたのだ。
そしてそれをやらかしたのは――。
「ふ、ふは、は、ふははははははは」
悪役の三流芝居のように嗤う姫であった。
「お前、何しやがる!」
「闇魔法の『蛇縛り』だ。これなら勇者にも解けないだろう?」
すっかり口調が豹変している。そして、女の裏返った声が、男の野太い声になっていた。
「誰だお前。魔王とグルか!」
「そんなことも気づけないとは、やはり馬鹿なのか。まあ、所詮は愚民なのだから当然だがな。……私はプリンツ。名に聞き覚えがあるだろう?」
言われて、思い出した。
確かにこの声は初めて聞いたのではない。伝説の鎧を手に入れた西の王国の王城、あそこでニヤニヤしていた王子のものだ。
……結局ダームに腹黒を暴かれ、処刑となったはずだが。
「どうして、という顔をしているな。なんら不思議なことはない、私は国外追放をされた。それもこれも、あんな馬鹿女のせいだ。そしてうっかり大穴に落ち、魔王様に助けられた」
馬鹿女というのは、きっとダームのことだろう。そう思うと腑が煮え繰り返る。
「ダームのことを悪く言うな」
「へえ。もしかして君はあの女に惚れているのかい? ならやめておいた方がいいと忠告しておこう。彼女はふしだらな女なのでね」
「ふざけるな! ふざけるなよ!」
そう叫んで、縛られた手腕などそっちのけで王子の方へ走り出す。
しかし、途中で勢いよく転んでしまった。……足を黒蛇魔法で拘束されたのだ。
「てめえ!」
「いい気味だ。陥れられた地獄、味わうといい」
にやりと笑い、王子が女装を剥がす。
若白髪が顕になり美男子の顔が曝け出された。
そしてゆっくりとこちらへ歩いて来る。一歩、一歩、また一歩と。




