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70:魔王、そして人質

「――来たであるか。哀れな人間めが」


 黒い穴を抜けた先。

 最初に聞こえたのは、嘲笑うような声だった。

 それは普通の人間のものではなく、まるで地響きかのように低く振動して聞こえる。目線を上げるとそこには大岩の如きの化け物がいた。


「お前が魔王か? なんかやたらと体重たそうだな」


「これこそが我の威厳である。どうか、恐れ慄いたであるか?」


「いいや別に。動きとろそうだなって思っただけだから」


 岩のような大きな体を玉座に腰かけ、腕を組む熊のような化け物。

 人形はしているがその肌は光沢を放つ黒。毛の生えていないその巨体は、動くにはかなり不利に見えた。


 ともかく、


「俺は勇者カレジャス。魔王、お前を倒すためにはるばるやって来たぜ」


 名乗り上げるなりカレジャスは武器を構え、魔王へと全力で斬りかかっていった。



* * * * * * * * * * * * * * *



 ――が。


「簡単に我を殺せると思っているであるか。それはあまりにも浅はかである」


 次の瞬間、勇者の体が何者かに阻まれた。

 一体何があるのか。見てみるが、そこには何もないように思える。だが確実にあるのだ、進路を塞ぐように広がる透明な幕が。


「ちっ。見たことねえな、これも魔術の一種か?」


「我が使うのは魔術と違う、妖術である。勘違いするでない」


「魔術も妖術も、俺にとっては一緒だよ」


 どちらにしろ、魔術破りの魔法で突破できるだろう。普通の魔法使いなどと違い、カレジャスには特殊な魔法が使えるのだ。

 剣に魔法を込める。そしてそのまま、透明な幕を切り裂いた。


「ぬっ!?」


 そんなに意外だったのか、魔王はギョッとした。よほど先ほどの幕の強度に自信があったのだろうか?


「お前の術は効かねえ。これで終わりだ」


「そうは行かせないのである。こちらには、人質がいるのである」


 人質、という言葉にカレジャスは嫌な予感がした。そしてそれは的中することになる。


「地上から連れて来た姫である。もしも我を殺すつもりなのであるなら、この娘を殺すのである。勇者として、それはいいであるか?」


「た〜す〜け〜て〜く〜だ〜さ〜い」


 魔王の手にがっしりと掴まれた少女の声が、部屋中に響き渡る。

 殺されそうになっているというのになんとも腑抜けた声だな、と思ったがそれは置いておこう。

 どこの姫だか知らないが、大柄な少女だ。頭から布を被っている。その灰色の瞳は、こちらをじっと見つめていた。


 どうしようかとカレジャスは躊躇う。


 本当ならこんなやつは放っておいて魔王を殺すべきだろう。が、もしダームだったらどうするか? という考えが浮かんでしまった。

 きっとあの魔法使いの少女であれば、目の前の少女を救うと決めるだろうから。


「人質はどうやったら解放するか、とりあえず条件くらい言えよ」


「そうであるな。勇者が頭を垂れて我の仲間入りをする。それだけである」


 まあなんとも傲慢な。

 さすが魔王、と称賛の拍手を送りたいくらいだ。さて、どうするか。

 とりあえず会話を続け、その隙に姫を救出。それしかない。もちろん魔王の言葉通りにはしないので。


「その娘は、どこの姫だ?」


「北国の姫である」


「ふーん……。北国って王政だったっけか? よく覚えてねえな」


 会話の内容はどうでもいい。タイミングを狙うだけだ。

 そして、今だ、とカレジャスは思った。


 魔王が少しだけ話に気を取られたその時、思い切り剣から雷を放った。

 そして雷の光で目眩し状態になっている間に猛ダッシュ。魔王の手の中の少女へと――。

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