07:検査
「適性検査は多少の才覚がないとできません。その点、僕らの中にカレジャス殿がいたのは幸いと言えましょう」
適性検査というものは、カレジャスがしてくれるらしい。
カレジャスはため息を吐き、歩み寄ってきた。
そして一言、「脱げ」
「え?」
信じられないワードに、ダームは首を傾げる。何かの間違いかと思ったが、どうやら違うようだ。
「『え?』じゃなくて、脱げって言ってるんだよ。適性検査は、腹に手を当ててやるんだ。文句あるんならやってやらねえぞ」
「わかった」
頷いて、ダームはコートを思い切って脱いでしまう。
遠慮なく下着が晒され、メンヒは目を覆い、クリーガァはなんだか嬉しそうにした。
「戦士さんに僧侶くん、どうかしたの?」
問いかけてみたものの、彼らは何も答えずゆるゆると首を振るだけだ。「変なの」と呟きつつ、勇者の方を向く。
「あたし、何か悪いことした?」
「一応貴族なんだろ? そんな安易に下着を見せたらダメだろ。それともお前、売春婦か何かか?」
「これでも(元)公爵令嬢だよ?」と悪気のない顔で首を傾げるダームは何もわかっていない。
諦めたのか、呆れ返ったようにカレジャスは肩をすくめ、それから彼女の腹に手を当てた。
「今から適性検査をしてやる。でもかなりの魔力使うから、覚悟しろよ」
「魔力……?」
またも聞き慣れない言葉が飛び出した。
貴族令嬢で時間を持て余していたのに、何の勉強もしていなかったことが悔やまれる。
「魔力は、魔法を使う体力みたいなもんだ。基本魔法を使えねえやつでも魔力ってのは体に宿ってる。適性検査はそれを対象の体から吸い出して検査するってわけ」
いまいち要領を得ないが、まあそういうことらしい。
「勇者様、痛くしないでね」
「任せとけ、大丈夫だぜ。……多分」
カレジャスが何やら唱え始めた。呪文らしい。
他の二人はそれを遠目に見守り、ダームはただ立っていることしかできない。
長い詠唱が終わり、勇者が何事かを叫んだ――その瞬間だ。
突然、ダームの体に激痛が走った。
それは頭がぐらぐらするような、目がチカチカするような不思議な感覚。彼女は膝から地面に崩れ落ちる。
「な、何がっ……」
わからない。今何が起こっているのかわからない。
とんでもなく痛い。どこが痛いのだろうかも認識できないほどに痛い。
痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い……。
* * * * * * * * * * * * * * *
「おい大丈夫か!?」
カレジャスの声がして、ダームは目を覚ました。
起き上がろうとするも体に力が入らない。ひどい吐き気がした。
「あたし、どうなって……?」
「後で詳しく言う。それより今は水を飲め」
押し付けられた水を喉に流し込む。カラカラに乾いていた体に少しだけ潤いが戻った。
しかしまだ力が入らない。一体これはどういう状況?
「魔力が爆発したんだ」とカレジャスは青色の目を伏せて言った。
「説明お願い」
「適性検査ってのは特別な人間しかできねえ。俺みたいにな。勇者ってのは選ばれし者なんだぜ? でも俺も検査に慣れてるわけじゃねえ。だから、失敗したんだ」
「もっとも」と彼は言葉を継ぎ、
「検査自体は成功した。けど、お前の中の魔力があり余りすぎて、俺が吸い出した瞬間溢れ出してきやがった。一種の暴走だわな。そんで俺が止められずに限界まで魔力が外に逃げて、お前の体にはほとんど空っけつになっちまったってこと」
魔力は魔法用の体力みたいなものかと思っていたが、どうやら実際の体力と直結するらしい。どれくらいの時間で復帰できるかがかなり心配なのであるが――。
「大丈夫ですよダーム殿。あなたの魔力は、僕らも驚くほど大きかった。今まで使っていないにしろ、あれはあまりにも膨大過ぎます。きっと魔力の生成力が高いんですね。一晩眠ればかなりの量が溜まることでしょう。そうしたら体調も戻ります」
「心配することはない! 気を強く持ちたまえ!」
みんなあまりそこまで大事と捉えてないらしいので、ダームも少しは安心だ。
それはともかく、だ。
検査の結果を聞かなくてはならないことを思い出したダームは、勇者に「どうだった?」と問うた。
カレジャスは頷き、大きく息を吸い込んだ。
――果たして。