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66:「それでも、あたしは」

 瞼を開ける。

 夕暮れの赤い空から光が差し込み、ダームを優しく照らしていた。


「あれ……?」


 どうやらまた意識を失っていたらしい。身を起こし、周囲を見回す。

 そこは馬車の中のようだった。でも状況的に車中泊をしたようでも、うっかり昼寝をしてしまったようでもない。


 どうしていたんだっけと記憶を呼び覚まして、ダームは思い出した。


「そうだ。あっ、勇者様は!?」


 すると、すぐ隣から声がした。「ダーム殿、目覚められましたか」


「ごめん、なんか寝てたみたい。僧侶くん、勇者様はどうなったの?」


 意識が落ちる寸前、どこかへ歩き去る彼の影を見たように思う。

 あの後どうなったのだろう。もしかするとダームが寝ている間に合流できたのか、とも思ったが……。


「申し訳ない! カレジャスくんは一人で旅立っていってしまった!」


 珍しく馬車の座席――そこにはいつもカレジャスが座っているのだが――にいたクリーガァが、すまなさそうに言った。


「えっ、でもそれじゃあ」


 あのまま何も持たず、装備と身一つで魔王城へ向かったと言うのか。

 正直、魔王がどんな存在かも知らないしどうでもいい。が、もしも強敵であるとしたならば、もしも相手が複数だったならば。


「勇者様の馬鹿……!」


 彼は彼なりの考えがあるに違いない。

 でもそれはあまりにも無謀だった。見過ごせるはずがない。


「今すぐ行こう」


 一も二もなく、ダームは決断していた。


「でもダーム殿。カレジャス殿はついて来るなとおっしゃっていました。その上、彼は勝手に飛び出して行った。それを追う責任も、僕たちにはないはずです」


「そうだね、僧侶くんの言う通りだよ。勇者様は勝手だし、今すっごく腹が立ってる」


 本当に、メンヒの意見はもっともだった。

 ダームも他の誰かならきっとそう言って放っておくだろう。でもカレジャスだけは、違うのだ。


「勇者様は勇者様なりに決めたんだし、それを曲げることはないってのはわかってる。――――それでも、あたしは勇者様が好き。だから助けるよ」


 それがダームなりに出した答えであった。

 誰がなんと言おうと、この胸の内にある好きの気持ちは本当だから。だから、例え求められていないとしても。


 メンヒは大きく頷いた。


「……わかりました。僕はダーム殿の意志に従います」


「私もカレジャスくんには色々と言いたことがある! 拳一発をお見舞いするためにも赴かなくてはな!」


 ……結局、全員賛成のようだった。

 そうとなれば決まりだ。今すぐにでも勇者を追わなくては。


「勇者様に会えたら後でたっぷりお仕置きしなくちゃだね。もたもたしてる暇はない、さあ行こう!」



* * * * * * * * * * * * * * *



 かくして、三人は世界の中心、魔王の棲み家と噂される『大穴』へ向けて出発した。

 風より速く、馬車を走らせ続ける。


 焼け焦げそうなほど熱い胸の奥で、ダームはそっと祈った。


「勇者様。どうかお願い、無事でいて」


 これにて五章は終了し、次は戦闘&ざまぁ展開が待っております。

 どうぞお楽しみに! ブクマ等をして頂けると励みになります!

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