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64:彷徨う乙女心

「はっきりしろよ!」


 その怒声に、ダームは思わずビクッとなった。

 大声に驚いたのもある。が、彼女が震えた理由はそれではない。


 はっきりしろとそう言われてしまったからだ。


 もしかしたら勇者様ならこのまま許してくれるかも知れないとそう思っていた。

 浮気性なのはわかっている。同時に二人の男を好きになるなんて間違っていると知ってはいる。


 だが、この気持ちはどうしようもないのだ。


 しかしカレジャスはそんなダームの甘さを許してくれなかった。


「そんなの、だって」


 急に迫られても、選べない。

 ダームはどちらも同じくらい好きなのだ。だからどちらか一つだなんて無理。


 先ほどまでの戦闘の疲れもあるのかして頭がぐらぐらした。今すぐにでも倒れてしまいそう。


「カレジャス殿落ち着いてください。今、ダーム殿にそれを言うのは……」


「じゃあお前がダームから手を引くのかよ。違うだろ?」


「それは……」メンヒも言葉に詰まってしまっていた。


「なぜ今その話になる! それは全て片付いてからすればいいことだろう! 今は魔王退治が先だ!」


「お前はすぐそうやって脳筋なこと言うよな。馬鹿だよな。馬鹿は楽でいいよな。俺は、お前みたいになれねえよクリーガァ。俺がダームに、お前らに迷惑かけてんだぞ。これ以上一緒にいたら、お前らが不幸せになっちまう」


 カレジャスは今度はダームに向き直った。


「もしお前が俺一人を選んでくれるんだったら、俺はお前だけを守ってやる。けど、そうじゃなきゃ俺は無理だ。全てを捨てて俺を選ぶか、俺を捨ててメンヒを選ぶか。……決めろよ」



* * * * * * * * * * * * * * *



 しっかりしなければいけないんだと、わかってはいる。

 きっとこの場ではきちんとした答えを出すのが正解で、そうしたらカレジャスだって納得してくれる。

 彼は今までずっと、嫌な思いを抱えていたのだろう。勇猛果敢にも二股宣言をしたダームが気に入らなかったに違いない。


 でも乙女心は複雑で、どちらか選ぶことなんてとてもできなかった。


「……わからないよ。どうしてそんなこと言うの!?」


 口から言葉が漏れ出していた。


「勇者様は勝手すぎ! 散々人に心配かけて、それでわがままばっかり! あたしは、みんなと仲良くしたいよ……!」


 ダームは本当にどうしていいのかわからなかった。彼女はこれでもはっきりしているつもりなのだ。カレジャスもメンヒも、どちらも好き。これが彼女の本音なのに。


 場に、沈黙が落ちた。


 ダームをじっと見据えるカレジャス。そして彼は一言、


「わかった。じゃあ俺は、一人で行く」


 覚悟を決めた顔でそう言ったのである。

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