63:装備は揃った、心は揃わぬ
「……これで全ての伝説の装備が揃ったわけですね」
メンヒがそう口を開いた。
兜、盾、鎧、そして剣。
古代より眠っていた伝説の装備品、それを一行はとうとう集め切ったのだ。
伝説の剣が手に渡った今、カレジャスは完全装備となり光り輝いて見える。
「そうだね。で、これからどうするんだったっけ」
そう言って首を傾げるダームに、クリーガァが勢いよく答える。
「魔王退治に行く予定だ! だろう、カレジャスくん!」
話を振られた勇者。
彼はしばらく手元の剣を見つめていたが、顔を上げて言った。
「そうだな。でもお前らはここまでだ」
え、と声が漏れた。
他二人の顔を見るダームだが、メンヒもクリーガァも驚いた顔をしている。どうやら聞き間違いではないようだ。
躊躇いつつ、問いかける。
「ど、どうして? 何言ってるの勇者様?」
「だから、お前らはここまででいいって言ってんだよ。今までありがとうよ。魔王は、俺一人で退治する」
頭の中が疑問で満たされていく。
なぜ? どうして?
だって、おかしい。ここで終わり? うろ覚えだが、確か聞いた話では全員で魔王退治に行くはずでは?
「カレジャスくん、一体何を言い出してるんだ? 私たちが今まで一緒に旅をしてきた理由を忘れたのか?」
「待ってくださいカレジャス殿。それでは話が違います」
戦士と僧侶の言葉に、勇者は思い切り噛みついた。
「違うことねえ! 俺はお前らにとってお荷物なんだろ? いっつもいっつも邪魔者扱い! さっきだって俺のせいで迷惑かけちまった。だから魔王退治も、俺がやる。俺だけでやるんだ」
あまりにも急なことだったから、脳が理解に追いつくのにしばらく時間がかかった。
しかしやっと全てがわかった時、ダームは激しく反論する。
「迷惑だなんて。勇者様は確かに迂闊だったしすっごく面倒だったよ。でも、だからって」
「……りしろよ」
掠れたような声がした。
いつものカレジャスらしくない、弱々しい声。
ダームが聞き返す前に、今度は大きな怒声が耳に届いた。
「俺なんかどうでもいいんだろ! 俺かメンヒかはっきりしろよ!」
叫ぶカレジャスの表情はいつになく本気だった。




