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60:僧侶くんの男気

「う、うーん……」


 目を覚ますと、すぐそこに見慣れた顔があった。

 短い黒髪に漆黒の瞳。不安げにこちらを見下ろす彼は、メンヒだ。


「僧侶くん……。あたし、どうなったの?」


 覚えているのは、頭痛がして倒れ、涎を垂らす勇者に襲われたこと。

 そして最後に聞こえた声も、ぼんやりであるが記憶していた。


「ダーム殿が危なかったので、僕がカレジャス殿を止めました。かなり手荒な方法になってしまいましたが」


 簡単に話を聞くと、メンヒは元々カレジャスが腰に差していた剣で、彼の背中を刺したのだとか。

 カレジャスの剣は地面に放り出されていたとのこと。錯乱した際に取り落としたのだろう。


 剣に刺された勇者が悶えている間にダームを助け出し、治療してくれたらしい。


「ありがとう僧侶くん。もしも僧侶くんがきてくれなかったらあたし、きっと生きてなかった」


「はい。でもダーム殿の体調を含め、今はかなり悪い状況です」


 横目で見ると、クリーガァがなんとか応戦しているのが見えた。

 今度こそ吹き飛ばされないようにと取っ組み合いを続ける戦士と勇者。普段言葉で喧嘩ばかりしているのは見ていたが、武力で喧嘩をするとああなるのか。


 それはともかく、


「あたしも魔法はあんまり使えないし、戦士さんもいつまでも戦っていられるわけじゃないし……」


 メンヒの腕の中から抜け出したダームが頭を抱える。

 そんな彼女へ、メンヒは自信ありげに言った。


「それなのですが、僕に提案があります」


「何?」茶色い瞳で少年を見つめると、彼は何かを決心したような顔をしていた。


「少し危険なのですが、僕を囮とするのです。そしてその隙に、ダーム殿とクリーガァ殿に呪いの剣を奪って頂きます」


「囮!? 僧侶くん、戦えないのに大丈夫なの?」


 彼は先ほどは剣でカレジャスを刺したと言うが、すでにその手に武器はない。カレジャスの背中に刺さったまま抜けなかったのだそう。


 無手の少年があんな化け物に勝てるだろうか、とダームは考えた。いいや無理だろう。魔法を使えるダームですら及ばなかったのに、戦闘経験のないメンヒには手に負えないに決まっている。

 だが、メンヒは引かなかった。


「僕が相手できるわけはないと弁えております。が、逃げ足には多少の自信があるのです。気を引くことだけならできるかと」


 ダームは少し悩んだが、他に手はなさそうだ。

 不安はあるものの、頷くことに決めた。


「わかった。じゃあお願いね、僧侶くん。……勇気振り絞って頑張って!」



* * * * * * * * * * * * * * *



 少年の影が、山頂の草原を駆け回る。

 風の如く走る彼の後を追うのは、今にも食い付かんと目をギラギラ光らせた野獣……のような青年、カレジャス。


 メンヒは声をあげたり、しきりに動いてカレジャスの注意を引く。勇者の全力疾走に負けず劣らずの速さで走っていた。


「ほぅ。これはなかなかの見物だな」


「でしょ? 僧侶くんすごいよね!」


「そういう意味ではない。滑稽と、そう言ったのだ」


 傍観するエペといまいち噛み合わない会話を交わしつつ、ダームは機を見計らう。


 カレジャスがメンヒに飛びかかろうとして失敗し、ずっこけていた。今だ、と思い、彼女は飛び出した。


「『ウインドΓ』! どんどんどんどん速く速く!」


 追い風を巻き起こしてスピードを上げる。そのまま勇者と距離を詰め、彼女は立ちあがろうとする青年の背中を踏みつけにした。


「うがぁ! があっ」


「勇者様、ごめんね!」


 そう言いながら、彼の手の銅色の剣目掛けて全力で魔法を放った。


「『アイスΓ 氷柱』! 吹き飛べ!」


 剣へと氷柱が突き刺さる。

 勢いよく刺さったそれは勇者から剣を奪って彼方へ飛ばしていった。


「戦士さん! あとは任せたよ」


「任された!」


 地面に落ちた呪いの剣。その傍にすぐさま走り寄ったクリーガァが大足を上げる。

 そのまままっすぐに振り下ろし、靴裏で剣を割り砕いた。


 キィーン、と高い音が響き、剣が残骸と化す。

 そしてダームの足の下、カレジャスの体から力が抜けて彼は気絶した。


 ――こうして、3vs1の過酷な戦闘は幕を下ろしたのである。

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