06:名案
簡易のテーブルに並べられた夕食は、この簡素なテントに似合わぬ豪華さだった。
「うわー、美味しそう!」
「そうだろうそうだろう! 私の自慢の料理だ! たんと食べてくれ!」
クリーガァは胸を張る。こんな大男が料理を作れるなんて……、と正直驚きである。
それはさておき。
数日ぶりのまともな食事。ダームは叫んで夕食に飛びついた。「いただきます!」
他三人も手を合わせ食べ始める。
パンが香ばしく、蛇肉は柔らかくて口の中でとろけるようだ。味はなかなかだった。
しかし貴族の味を知っているダームに言わせればこれでも二流、いや三流。けれど空腹が限界まで達していた体には、味が染み渡った。
「うん、美味しい!」
大喜びのダーム。一同も肉とパンを頬張った。
「おお、そうか! それなら作り甲斐もあったというものだ!」
「蛇肉うめえだろ。ここらの獣の中では一番マシなやつだからな」
「カレジャス殿はさすがです。あの大蛇を狩れるなんて」
しばらくワイワイ話していたのだが、メンヒが突然ダームに質問を投げかけてきた。
「ええと。ところで、ダーム殿はどういう経緯でここへ?」
話を振られたダームは驚き、しばし沈黙する。
そしてカレジャスの時と同じように、全てを話すことにした。
「……ってことで、国を追放されちゃったってわけ。お腹が減って、蛇に襲われて死にそうだったあたしを、勇者様が助けてくれたの」
それを聞いて頷く僧侶。「ほぅ、そうでしたか。カレジャス殿は意外にお優しい方なのですね、勉強になりますよ」
「『意外に』ってなんだよ『意外に』って」という勇者のツッコミは無視し、メンヒは続ける。
「理解しました。その上でダーム殿にお聞きします。……あなたはこの先、いかように過ごすおつもりですか?」
そう問われ、ダームは唸った。
全然先が見通せない状況。今まで箱入りお嬢様として育てられた故に世間知らずであるし、一人で生きていけるとは思えない。
それに、恩返しの件も忘れてはならなかった。これ以上に勇者たちを煩わせてはならないし、何かお礼をしなくては。
「うーん。どうしよう……?」
「それじゃあ私に一つ提案があるのだが!」
高く手を掲げ、そう言い出したクリーガァに一同の視線が集まる。
「ダーム嬢を我々の仲間に加えてはどうだろうか!」
声がデカくて耳がキンキンする。
が、それよりも彼の発言内容にダームはギョッとした。
「仲間?」
「現在、我々のパーティーには魔法使いが欠如している! 戦士に僧侶、勇者のメンバーではこの先の旅は難しいであろうと推測していた! もしも魔法の素質があるのなら!」
勝手に盛り上がる戦士を制するのは、勇者カレジャスだ。
「ちょっと待て。お前馬鹿か? こんな女に魔法が使えるわけねえだろ。使えたとしてもゴミレベルに決まってら」
「そうとは限らないではないか!」
カレジャスとクリーガァが口論を始めてしまった。
しかし、勝手に話を進められても困る。
ここがどこの国なのかは知らないが、王国で有名な魔法使いというのは王宮魔法使いくらいで、一般人や貴族が使うものではないのだ。
魔法を使うなんてできるとは思えないのだが……。
「まあまあ皆さん落ち着いて。僕に名案があります。――適性検査をすればいかがです?」
メンヒの提案に、勇者と戦士は「ああ」と納得したような顔。
ダームは適性検査というものを知らないのだが、簡単に言えば、
「魔法が使えるかどうか調べるわけです」
とのこと。
よくわからないが、もしかすると勇者一行の役に立てるかも知れないし、やってみるしかあるまい。
そんな軽い気持ちでダームは、夕食後に適性検査を受けることになったのだった。