47:二股宣言
「あたしは勇者様が好き。本当の本当に大好き。でもね、あたしのことを好きだって言ってくれる僧侶くんのことも大事なの。賢くて優しくて、惚れ込んじゃったんだ。だから……」
天へ指を突き立てて、格好をつける。
「どっちも愛します!」
きっと勇者も僧侶も唖然となっただろう。
あまりにも突然だったし、よりにもよって二股宣言。すぐに頷ける話ではない。
でもダームの気持ちは本当なのだから仕方ない。
メンヒに告白を受けた時、ダームは気づいてしまったのである。
――ああ、あたしは僧侶くんのことを愛しちゃったんだ、と。
「本気か?」とカレジャスが詰め寄ってくる。
「俺のことも好きで、メンヒのことも好きで。欲張りなお前らしいっちゃらしいが、この話ばかりはそうもいかねえぞ」
確かに制度的に結婚できるのは一人だけなのだ。
それは理解できる。でもどちらも好きだというその気持ちは曲げられない。
「不謹慎だとか不道徳だとか、そういう風に思うのかも知れない。あたしは勇者様と仮にも婚約を結んでるわけだしね。……でもあたしは勇者様も僧侶くんも好き。だから愛したい。ダメかな?」
メンヒはしばらくの間黙っていた。
彼が一体何を考えていたのかはわからない。きっと彼だってカレジャスと同じ意見だっただろう。
だがやがて彼は頷いた。
「僕は、そういう考え方もありだと思います。ダーム殿がカレジャス殿と婚約を結んでいるのは承知の上ですが」
大きくを顰めるカレジャス。「俺は婚約なんか結んでるつもりはねえが……」
しかしダームは彼の言葉を聞いておらず、メンヒに思い切り抱きついた。
「ありがとー! 勇者様もそういうことでよろしくね!」
「あ……、ああ。そうだな」
何か文句を言いたげではあるものの、諦めたのかしてカレジャスは曖昧にそう答えた。
すっかり上機嫌のダームは男二人の手をとってはしゃいだ。御者台から「どうしたのだろうか!」とクリーガァまで顔を覗かせる。
この先、関係がどう変化していくのだろうか。二股宣言が吉と出るか凶と出るかは今は誰にも計り知れないことである。
そうしてなおも馬車は南へ向かって走り続けるのだった。
これで四章終了。やっとざまぁ展開を迎え悪役令嬢ものの醍醐味が果たせた感じです。
が、話はまだ終わりません。次から五章に突入です。乞うご期待!
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