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44:「あたしはあなたを許さない」

 ダームは手記を読んで、心が痛まなかったわけではない。

 ――ああ、やっぱりそうだったのか。そんな残念なような、納得のような、そんな気持ちを抱いた。


 王子様と結ばれること以外頭になかった当時の自分が馬鹿みたいだ。きっともし結婚していても、仲良くはなれなかっただろう。


 だから、婚約破棄されて良かったのかも知れないというようにも思えるのだ。



* * * * * * * * * * * * * * *



 金髪の少女はなおも続ける。


「アスティーにルルのことがバレた。口喧嘩になった末にアスティーを殺害。自殺に見せかけてことなきを得た」


「ルルにも不満が溜まって爆発、こちらとしても可愛げのない行動に飽きたので抹消」


「ジャレットと婚約を結ぶ」


「ジャレットにも飽きた。そろそろ他の女を探す……」


 突然割り込んできた声に、ダームの朗読は遮断された。


「やめろやめろやめろやめろっ」


 プリンツ王子が金切り声を上げて叫んだ。


「捏造だっ。その手記は捏造だ。私のものなんかじゃない捏造だっ。絵は城にきた踊り子たちを描いただけ。私はジャレット一途だし、公爵令嬢が不倫していたのも本当だ。そのような嘘っぱち、誰が信じるか……! 私が三人もの女と付き合い、そのうち二人を殺していただと? 信じられるかそんな話。この性悪女を摘み出せ。衛兵、何をじっとしている! この薄汚い女どもを私の目の届かぬ場所へ連れて行け。そしてこの世界であり得ぬほどの苦しみを与えるのだ。王子を侮辱したのだからそれくらいあって当然だ。そうだろう? この勇者とやらだってグルに決まっている。そのために父上に交渉を持ちかけたんだ。勝てるはずのない交渉をな。しくじった、この女が公爵令嬢だと早くに気づいていれば……。おい何をしている、動けと言っているだろう衛兵。おい、おい」


 誰一人として王子の言葉に答えない。

 まくし立てる王子を手で制し、国王が厳かに言った。


「プリンツ。お前が前からそういう人間であるということは知っていた。だがここまでとはな。……お前の味方はできない」


「え……」


 父からそうはっきりと拒絶を伝えられ、王子は床に座り込んだ。「父上、まで。そんな」


 元々、今まで逃げ切れていたことが不思議なくらいなのだ。

 ダームに冤罪をかけて追放するのはともかく、グルで彼女を嵌めた男を一人、そして愛人を二人も殺しているわけである。よくもここまでしぶとく残ったものだと感心する。


 もっとも、だからと言って追求の手を抜いたりはしないけれど。


「こっちから出せる証拠はこれで全部。王子様、もう堪忍した方がいいよ」


 この場にはもう、彼の味方など一人もいない。皆が疑心の目で王子を見ていた。


 自暴自棄になって暴れ出そうとする王子。しかしそれを許さなかったのは戦士クリーガァだ。


「暴れられては困るな! 己の罪を認めるべきだと私は思うが!」


 巨体に阻まれ、プリンツはなすすべもない。背後に行こうとしたが、カレジャスが待ち構えていた。


「ここは通さねえ。お前にはもう逃げる資格もねえよ」


「き、貴様らっ。私をこれほど貶めて何が楽しいっ! 何が何が何がぁっ」


 喚く王子の正面へ再び立ち、ダームは彼を見据えた。

 暴露前の余裕はどこへやれ、彼はもはや獣同然だ。思わず込み上げそうになる笑いを、彼女はグッと堪える。


 そして指をまっすぐ突きつけ、大声で言い切ったのだった。


「もう終わりだよ王子様。――あたしはあなたを許さない」


 玉座の間に、プリンツ王子の絶叫が高く木霊した。

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