43:暴露
「な、なんだ君は!?」
王子が甲高い裏返った声を響かせる。急に指名され驚いたのだろう。
王も「何用だ?」と厳しい視線を向けてきている。
「国王殿、今からこの場は王子の断罪場へと変わります。とくとご覧ください」
メンヒの言葉に、王は問うた。
「断罪場だと? それはどういう」
一方のダームは構わず王子に近寄っていく。
そして、小首を傾げた。
「あたしが誰だかわかる?」
「……ま、魔法使いだろう。勇者とやらの仲間のっ。魔女か? 魔女なのか君は」
「ふーん。これでもわからないんだ。そっか、じゃあ教えてあげる。……ほらね」
そう言いながら、帽子を脱いで顔を露わにした。
彼女の素顔を見て、プリンツ王子が「あ」と声を上げる。
「き、君は……」
「あたしは魔法使いダーム。元公爵令嬢ダーム・コールマンと名乗った方が、通りがいいかな?」
王も、勇者も戦士も、周りの衛兵たちも、この場の全員がダームに見入っている。
それぞれがそれぞれの感情を抱えているだろうが、今はそんなことは気にしない。考えるのは、目の前の憎き男のことだけ。
「驚いた?」
「き、君は何をしにここへ戻ってきた! 国外追放したんだぞ。戻ってくるのは原則禁止だっ。君はどうしてここにいる! 兵ども、この女を牢屋にぶち込め!」
しかし誰も動かない。動けないと言った方が正確か。
「あたしは魔法使いなんだよ? ただの衛兵なんかに負けるわけないでしょ。やろうと思えば、どんなことだってできるんだからさ。……さてと、王子様の腹黒、全部暴いてあげようね」
僧侶に目配せすると、彼が前に出た。
そして『それ』を掲げて言った。
「プリンツ王子殿、これに心当たりはありますか?」
彼が手にするものは、女性画の数々。言うまでもなく彼の部屋にあった物だ。
「それは私の。何故君らがそれを持っている!」
「ご想像にお任せします。……重要なのは描かれた女性たちです。これは王子殿の描いた絵で、間違いありませんね?」
「そうだが。寄越せ!」顔を真っ赤にし、プリンツ王子がメンヒへ掴みかかる。
しかしそれに割り込むのはダームだ。
「『ファイアーα』」
瞬間、王子の手に火がついた。
「あぢっ」と悲鳴をあげ、彼が大きく飛び退く。
これで王子に恐怖を与えることはできただろう。火はすぐに消えた。
「僧侶くんに今度手を出したら、もっと大きなファイアーにするから。わかる?」
王子は黙り込んでしまった。よほど驚いたと見える。
「さて続きですが……。王子殿が描いたこの絵の女性たちは、王子殿の愛人の方ですね? 違いますか?」
女性画は全員が裸だった。
背が高かったり低かったり、美人だったりそうではなかったりと色々あるものの、細かな身体的特徴が描かれている。これを見て、メンヒはプリンツ王子の愛人が描かれているとわかったらしい。
ダームにはどうしてそうなるのかがよくわからないが、メンヒが言うことを全面的に信じるだけだ。
王子は押し黙っていた。しかし彼に沈黙が許されるはずがなく、国王からの問いかけが彼に向けられる。
「プリンツ、お前の愛人であるというこの者たちの言い分は誠か。今すぐに答えよ」
「……ち、父上。こいつらの言っていることは全部嘘です! この女が私を貶めようとしようとしているだけ。嘘をでっち上げているんです、そうだろう?」
未だかつて見たことないくらい、彼は慌てていた。白髪が乱れ、せっかくの美貌が台なしだ。
ダームはさらに追い打ちをかけることにした。
「じゃあこれは、どうやって言い訳するのか聞いてみようね」
「これはっ……」
突き出したのは、薄っぺらの紙を束ねてできた手記。これがダームたちが探していた証拠となるであろう品である。
灰色の瞳を見開き、息を呑むプリンツ。これには何も反論できなかった。
ダームは手記を開き、声に出して読み出す。
「今日、公爵令嬢ダーム・コールマンとの婚約破棄予定。不倫の罪を被せ、国外追放する。邪魔者がいなくなれば私は気兼ねなく遊べるようになるだろう。使用人の男は今日のうちに始末する」
また別のページを読んだ。
「今私は三人の女と付き合っている。深窓の令嬢らしきジャレットもメイドのアスティーも、酒場のルルも魅力的。あの公爵令嬢などよりこの方が私の肌にずっと馴染む。妃に迎え入れるとしたらジャレット一択だが、他の女も捨てがたい」
王子の顔色がみるみる蒼白になっていく。それでもダームは読むのをやめなかった。




