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41:王城こそこそ探検②

「困りましたね……」


 頭を抱えて唸るメンヒの横、ダームも頭を悩ませていた。

 一体どうしたらここを突破できるのか。


 この中にきっと、復讐のための重要な何かがあるはずなのだ。それを見つけ出すため、なんとしても入らなくてはならないのに……。


「術式を仕掛けたのがどんな者であるかは知りませんが、そこまで複雑なものではありませんね。確か、マーゴ殿の屋敷にこの術式についての本があったはず。それによればこれは特別な呪文でしか破れないのだとか」


「その呪文って?」


「わかりません……。術式を仕掛けた者にしか」


 がっくりと肩を落とす少年。

 それではお手上げではないか。


「でも諦めるわけにはいかないし……」その時、魔法使いの少女にとあるアイデアが突如として降りてきた。


「そうだ。僧侶くん、あたしいいこと思いついちゃったかも」


「なんですか?」


 にっこりと微笑み、ダームは唇に指を当てる。


「王様のお部屋の前の護衛たちに見つからないように周囲を警戒してて。あたしがやるから」


「……? あ、はい」


 なんだかよくわからないままに頷いて、メンヒは少し後に下がる。


 それを見終えると前に出て、ダームが両腕を広げた。

 彼女の茶色の瞳は真っ直ぐに扉を見つめている。そして一言、


「『ウインドΓ』!」


 高く叫んだ瞬間、強風が目に見えぬ塊となって扉へ激突。

 メキメキと軋む音が響き、やがて――。


 ガタン、と大きな音を立て、扉が倒壊した。


「だ、ダーム殿!?」


「ふっふーん。すごいでしょ? 術式なんかなんのその!」


 結構大胆な手法ではあったが、ダームは見事に扉を破ることに成功したのである。


 音に気づかれて衛兵たちが寄ってくる……なんてことにはならなくて幸いだった。


「さあさ僧侶くん、早く早く」


 驚いて立ちすくむメンヒの手を引き、王子の部屋の中へと足を踏み入れた。



* * * * * * * * * * * * * * *



「ダーム殿は本当に女性らしからぬ勇気のあるお方ですね」


「女性らしくないなんて言い方傷つくでしょ? これでもあたし、か弱い乙女なんだからね」


「……すみません。そういうつもりではなかったのですが」


 そんな会話を交わしつつ、ダームたち二人はぐるりと周囲を見回した。

 部屋は綺麗に整えられている。さすが王族は違うな、とダームは思った。使用人たちが朝昼晩と身の回りの世話をしてくれるのだから。


 ダームもかつてはそれが当たり前であったが、今となっては懐かしいくらいの古い記憶だ。


 ……と、無駄なことを考えている場合ではない。


「あ、そうだそうだ。扉塞いでおかなくちゃね」


 倒れた扉を再び立てかけ、氷の杭で繋ぎ止めた。

 これで外観は元通りだろう。誰かが入ってこようとでもしない限りは気づかれまい。


「でも今はいない王子様がいつ戻ってくるかわからないし、急がなくちゃ」


 早速作業に取り掛かるとしよう。

 まず、部屋を漁りまくる。泥棒みたいで非常に申し訳ないのだが、この際仕方あるまい。


 目的の品はきっとこの部屋にあるはずだ。ダームとメンヒは手分けして、部屋の隅々を探し始めた。


「こうやってこそこそ何かをやるって楽しいと思わない?」


「遊びじゃないんですから。ダーム殿、それなりに気をつけないとですよ」


 そう言い合いながら、机の引き出しやら洋服ダンスやらの中身をひっくり返していく。


 後で絶対バレるだろうが気にしない。王子にその「後」を与えてやるつもりはないから。


 ガサゴソ、ガサゴソ。

 元婚約者の部屋の中身がこんな風になってるとは……と、ダームは少し興味深く思った。意外と彼は絵を描くのが好きらしく、あちらこちらに見知らぬ女の絵が机の中にぎっしり詰まっている。

 メンヒは「これも証拠になるかも知れません」と言って、絵を集め出した。


「絵が証拠になるってどういうこと?」


「後でお話しします。今はとにかく、肝心な物を探す方が先決です」


 部屋のあちらこちらを探り回ったが、それらしい物は見当たらない。

 でも絶対どこかにあるはずなのだ。どこに、と考えてしゃがみ込み、ふと机の下を除いた時だった。


「……あっ」


 奥に何かが落ちているのが見えたのだ。

 手を伸ばし、それを掴み取って引きずり出す。


 よくよく眺めてみると、それは小さな紙束だった。これこそダームたちが探し求めていた証拠品に他ならない。


 ダームは思わず笑顔になった。


「僧侶くん、あたし見つけた!」


 ――これで準備は整った。さあ、王子の元へ急ごう。



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