40:王城こそこそ探検①
昨日の夜更かしのせいか、少し遅めに起きてしまった。
使用人から食事が運ばれてくる。昨日の宮廷料理よりはずいぶん質素だが、文句は言っていられない。
食べ終えるや否や、隣の部屋へ飛び込んだ。
「お待たせ僧侶くん! ……ぁ」
「なんだダーム、お前もメンヒに用事か?」
ダームは思わず驚きに声を上げる。
だってそこには、カレジャスの姿があったのだから。
「またまた驚かれているご様子ですね。おはようございます。今、僕はカレジャス殿のご相談をお聞きしていたところですよ」
「そっか。もしかして伝説の鎧のこと?」
勇者は魔法使いをジロリと睨むと、呆れたように言う。
「もしかしても何もそうに決まってんだろ。あの頑固王が鎧を引き渡してくれねえから交渉の方法を考えてたんだよ。でも一応、知恵は借りられた。……んで、お前は何しに来たんだ?」
問われてダームは答えに窮する。
一体なんと言ったらいいのやら。が、代わりにメンヒが答えてくれた。
「少しダーム殿とお約束がありまして。申し訳ないのですが今日、僕は国王様とのお話しの場にご同行できそうにありません」
カレジャスがまたもこちらを意味深な視線で見た。
「惚れた男にここまで見つめられると、なんだかそわそわしちゃうんだけど」
「悪い。けどお前、メンヒと何するんだよ」
「えっと。そ、それは内緒だよ。いいからいいから、勇者様は鎧のことだけ考えて」
とりあえずだが、なんとか誤魔化し切れたようだ。
カレジャスは「クリーガァと行くなんて最悪だぜ」などとひとりごちながら部屋を出ていった。
「さあ。僧侶くん、準備はいい?」
「もちろんです。時間はあまり残されていません、早速取り掛かりましょう」
――魔法使いと僧侶の『復讐大作戦』が、幕を開ける。
* * * * * * * * * * * * * * *
誰も見つからぬようそっと部屋を出て、廊下を行く。
決して使用人や王族にバレてはいけない。最初のミッション、それが王城こそこそ探検である。
「なんかワクワクするね」
「でも慎重に行かねばなりません。そこのあたりはしっかりと弁えておいてください」
小声でそんなことを話しながら、まず探すのは王子の部屋。
使用人たちの部屋を通り過ぎ、一番奥の豪華な部屋の前まできた。これが王子の寝室だろうか?
「開けてみよう」
「はい。でも警備が厳重な可能性があるため、少し試してみませんと」
ダームは頷き、扉を軽くノックする。
中から返答はないと見るや否や、ドアを勢いよく開けた。
「隠れてっ」
使用人の一人が傍へやってきたので、慌てて部屋の中に身を隠す。一秒遅ければ見つかっていた。
「ふぅ……。どうやらここは、書庫らしいですね」
メンヒの言う通り、大部屋中に本棚が置かれ、そこにぎっしりと本が並べられていた。
もしかするとこの中に興味深い本があるかも知れない。一瞬そう思い本を手に取ろうとしたが、ダームは慌てて首を振る。
「こんなところで道草食ってる場合じゃないね。ちょっと気になるけど、行かなくちゃ」
メンヒも大層残念そうにしていたが、様子を見計らいつつ外へ出た。
この廊下の部屋たちは全部ハズレだったようだ。
途中、使用人が掃除をしていたりして、危うく姿を見られそうになった一幕などもありつつ、二人は元来た方へ引き返す。
そして今度は一階へ。
一階は食堂と広間しかないので一回庭園に出て、また階段で二階に上がる。
先ほどとは反対側の廊下が伸びており、こちらはどうやら王族の部屋の群れらしかった。
「この中に王子様のお部屋があるはず……!」
一つ一つ開けて確かめてみる。
大抵はもう使われなくなった貴人の寝室左右に六つほど扉があったものの、どれを開けても中身は空っぽだ。
一つだけ王様の部屋らしきものがあったが、警備が厳重すぎて近寄れなかった。
なんとか警備の目を掻い潜った先、ダームたちは最後の一室に辿り着いた。
――もしここも空室だったらお手上げだ。他の部屋は全て探したはずなのだから。
「今度こそハズレじゃありませんように!」
小さく叫び、ドアノブに手をかけるダーム。だが……、
「……開かない?」
ドアノブが回らなかった。まるで石か何かのようにびくとも動かないのである。
「僕にも少しやらせてください」
メンヒも何回かガチャガチャとやったが、全然ダメ。疲れたような息を漏らし、やがて彼は言った。
「扉に特別な術式が埋め込められています。これでは開けられません」
「ええっ!?」
……どうやら、『復讐大作戦』はそう簡単に進まないようであった。




