04:勇者カレジャス
「どこに向かってるの?」
「俺たちのテントだ。お前みたいな泥まみれの女は、いっぺん洗ってやらねえとだろ? 水資源も限られてるってのに、面倒ごとを抱え込んじまったもんだぜ」
道中、森の中にて。
カレジャスに背負われながらダームは、彼と少し話していた。
森を抜けるのに、もう少しかかるらしい。
「……さっき助けてくれたこと、ほんとに感謝してる。ねえねえ、あなたは何のために旅をしてるの?」
カレジャスはため息を吐きながら、言った。
「ふらふらと。でも言うなれば――、俺が、勇者だからだな」
「ゆ、うしゃ?」
「そう勇者。よそもんだったらあんまし聞かねえかもだが、南の帝国ではそれなりに有名なんだぜ、勇者って」
ダームも、勇者という単語には聞き覚えがないではなかった。
幼い頃、寝物語として聞いた話だ。かつて魔物をバッタバッタと薙ぎ倒した英雄、彼の名前は勇者……みたいな話だったはず。
「それがあなたってこと? じゃあ英雄じゃん!」
「そうそう。まだ英雄にはなれてねえけど、それも時間の問題だろうな。あーあ、勇者ってのも楽じゃないぜ」
その言葉を聞いて、ダームのテンションはかなり上がった。
「本物の勇者様なんだね! すごい!」
あらゆる魔物を倒し、人のために戦う勇者。
彼がその寝物語の通りの人物であるとしたら、それはなんと素晴らしいのだろう。
年頃の乙女心を激しくくすぐられた。
「そこまで喜ばれると俺も嬉しいぜ、お姫様」
「お姫様って呼び方はどうかな? うーん、普通にダームでいいよ?」
「じゃあ勇者様って呼び方も変だろ。名前で呼べよ」
「それはいいの! 勇者様の方があたしよりずっとすごいわけでしょ?」
そんな会話をし、二人は軽く笑い合った。
ダームの心もどこか晴れやかになり、涙もすっかり乾いていた。
全部、勇者カレジャスのおかげ。彼はダームにとって命の恩人に他ならないのだ。
「いつか、お返しできるかな?」
「さあな。別に俺はお返しがされたくって助けたんじゃねえし。ってか、助けたの蛇を手に入れるついでだし」
「ついでってひどいよ、ついでって! ……でも、借りた恩義は返さなきゃ」
それが公爵令嬢――もっとも、『元』公爵令嬢だが――としての誇りのためでもある。
「わかったわかった。じゃあ借りの返済は近々な。っと、着いたな」
気がつくと、永遠に続くかと思われた森は開け、一気に視界が良くなった。
時刻は夕暮れらしく、空が真っ赤に染まっているそして。
「うわあ……」
赤や黄色、青色。
まるでサーカスのようなテントが、ダームたちを待ち構えていた。