38:僧侶くんの気持ち
「すく、われた?」
驚愕に身を固くするダームは、やっとそれだけの声をしぼり出した。
「そうです。僕はあの日、あの朝。ダーム殿に救われたんですよ。……自分を認めろって、そう教えられて」
思い出すのは東の国から北の国へ向かう道中のこと。
自信のないメンヒに向けて、励ましの言葉を送ったことを覚えている。
「あれで救われたっていうなら、あたしは嬉しいよ。でも……」
だからって、付き合わせるわけには。
「もちろん僧侶くんは頼れる仲間だし、手伝ってもらえるならそうしたいよ。でも危ないかも知れないの」
メンヒは大きくかぶりを振る。
「危なくたって構いません。僕は、ダーム殿の力になりたい」
「それって、恩返しってこと?」
小首を傾げるダーム。
元々彼女は勇者たちへの恩返しのためにもこの旅に同行しているわけで、さらに恩返しされるなんて変な感じだ。
けれどメンヒはこんなことを言ったのだ。
「違います。――僕はダーム殿に恋してしまったんです」
「え……」
聞き間違いかと思った。
だって真面目な顔で「恋してしまった」なんて彼のキャラじゃないし、第一そんなことを言ってもらっても困る。
だってダームには結婚を約束した人がいる。――カレジャスだ。
なのに、「好きだ」なんて言われてしまって、一体どう反応したらいいのか。
思考が追いつかないでいると、少年は慌てて言った。
「もちろん、ダーム殿がカレジャス殿をその……好きでいらっしゃるとは存じ上げておりますし、僕がどこまでも身勝手なことは知っています。でも、あの朝、僕は救われたんです。だから」
そして、深く頭を下げられる。
「ダーム殿がどう思われても構いません。けれど、どうぞこの罪深い僕に、何か手伝わせてください」
――つまりこれは、告白されたということらしい。
数日前に自分が告白したばかりなのに、別の人間に告られるなんて変な気持ちだ。
でも彼の言葉が本当だということだけはわかって、それでも拒絶するなんてできなかった。
「……わかった。じゃあ全部話すよ、僧侶くん」
ダームはにっこり笑って、メンヒの手を取った。




