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35/100

35:夕食

 呼ばれて食堂へ出向くと、そこには宮廷料理の数々があった。

 久しく食べるどころか目にしていなかったそれらに、この時ばかりはダームも喜ぶ。


「美味しそ、あ……」


 しかしすぐに王子の姿が目の端に飛び込んできて、黙らざるを得なくなった。

 基本、バレないよう声を出してはならないのもあったし、はしゃいでいられる心持ちでもなくなったのである。


「王族と同じ席に座るのだから、よっぽど重要な客人扱いをされているのだな! ありがたい!」


 クリーガァが声を張り上げ、表向き喜ばしいように見せる。きっと彼だって、内心うれしくは思っていないはずだ。

 王子は「そうだろう?」と言って、優雅に前掛けをつけている。


 胸がむらむらした。


「あの王子、ダームには気付いていやがらねえんだな。腑が煮え繰り返るぜ」


 カレジャスがボソリと呟いた。隣の席のダームだけが聞こえた声だろう。

 彼女はぎゅっと勇者に身を寄せた。そうでもしていないと安心できないから。


 国王が食堂へ入ってくると夕食が始まり、皆が思い思いに食べ出す。

 もちろんのこと料理は美味しいし、懐かしの味に浮かれていたい。でも、それをするにはダームの心はあまりにも重たすぎて。


「…………」


 いつまでグジグジしているのだろう、とダームは自分に問いかける。

 目の前の王子とは完全に赤の他人。赤の他人なのだ。何を気にする必要がある?


 でも彼は自身を捨てた男だ。許せるなんてはずがない。ダームは今すぐにでも魔法で焼き焦がしてやりたい衝動に駆られた。

 しかしいけない。そんなことをしたら勇者一行の魔法使いとしての名が廃る。でもだからと言って見逃すのか。


 頭の中で思考がぐるぐると回転した。周りの時が遅く感じられるほど速く。

 一体どうすればいいのか。どうするべきなのか――。


 その時、突然国王が話しかけてきた。


「そなた。どこかで見かけたような気がするのであるが、余とは初対面であるか?」


 問われ、ダームはドギマギした。


「え、えと。しょ、初対面だよっ」


 思わず声が裏返ったおかげで、まさかダームとは思われなかったようだ。

 でも息子と違い国王は勘が鋭いようだから気をつけなくては……。


「彼女は、南の帝国の魔術の街、マジーアの出の娘です。恐らく国王殿との面識はないかと」


 メンヒがナイスフォローを挟んでくれた。非常に助かる。


「そうであるか。これは失敬」


 それからはこれと言って特別な会話はなく、淡々と夕食が進み、やがて終わりを迎えた。


 勇者は国王に「また明日、もう一回話をしようぜ」と意味深に言って食堂を去る。

 ダームも最後にプリンツ王子を一瞥し、カレジャスの後に続いた。


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