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34:因縁の再会

 振り返るとそこには、懐かしい顔があった。

 若白髪の頭、灰色の瞳。整いすぎたくらいの顔も特徴的だし何よりスタイルがいい。


 典型的な美男子。しかし胸がぞわりとした。

 だって彼こそが、ダームと婚約し、裏切って国外追放を言い渡した王子その人なのだから。


 やばい。やばいやばいやばいやばい。

 頭の中が真っ白になる。何を言っていいのかわからず、足がガクガクと震えた。


「お前誰だよ」


「私か? 私はプリンツ王子である。この国の後継者となる者なのだから、口の利き方には気をつけるといい」


 これにはさすがのカレジャスでも驚いたようで、彼は急いで食ってかかろうとした。


「お、お前が王子か。じゃあお前が……」


 しかし彼の言葉を遮って、戦士が大声で笑った。


「王子くんか! 私はクリーガァという旅の戦士だ! どうか仲良くしてほしい!」


 ……危ないところだった。

 もしも今ここでダームの正体をバラしでもしたら、一体どうなっていたことやら。

 そこら辺は後でカレジャスにきつく言っておくとして。


 ダームも何か言わなければならないことくらいわかっていた。でも、声が出ない。

 代わりに答えてくれたのは、すぐ傍のメンヒだった。


「僕はメンヒ。しがない僧侶です。そして横の彼女が僕らの仲間である、魔法使いでございます」


「ほぅ。魔法使いか。魔法使いなら私も多少の興味はある。後でじっくり」


 そう言われて、僧侶は慌てて首を振る。


「誠に恥ずかしながら、この娘は非常に気が小さい性格で。慣れていない方とお話しするのが苦手なのです。ご無礼をお許しください」


「そうか」王子が頷き、その場はなんとか収まった。

 メンヒ様様である。


 一方ダームの内心は、因縁の男との再会に焼け焦げるような怒りを感じていた。

 自分を追放などという目に遭わせておいて、当たり前のように生きている。その事実がどうにも許せなかったのだ。


 しかしこの感情を口にしてはならない。形にしてはならない。湧き上がる思いを今にも溢れさせてしまいそうで、そんな自分がダームは恐ろしかった。


「ではでは、君たち父上と話でもしてくるといいよ。夕食の時にまた会おう」


 彼が残して行ったいやらしい笑みは、一生忘れないものとなるだろう。



* * * * * * * * * * * * * * *



 その後、玉座の間へ行って王と対面した。

 王子と会ったせいで気分は最悪。カレジャスが王と何やら話し込んでいるのを上の空で聞いていた。


 彼はまた夕食の時に、と言っていた。

 まさかダームが元婚約者だとは思いもしないで言っているのだろう。それにしても、向っ腹が立った。

 自分で捨てておきながら、また取り縋ろうだなんて。


 かつて、プリンツ王子との楽しい日々があった。ダームは王子を嫌いではなかったし、未来の夫だと信じて疑わなかった。

 そんな乙女心を砕いておいて許せない。許さない。


 鬱屈とした思いが膨らんでいくのを、彼女自身はどうすることもできない。

 玉座の間から退場した後、王子の言葉通りで夕食が振る舞われることに。


「あたしはどうしたら……」


 呟いたその声は、誰にも届かず、虚空にかき消えた。

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