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33:変装、そして王城へ

 目的地である王城への道のりは、そう長くはなかった。

 いくつかの町を越え、西の方へ行く。


 一晩明かした次の朝、一行は城下町へやってきていた。

 町の奥、そこには立派な城が聳え立っている。ダームが何度か足を運び、そして……婚約者に絶縁を告げられた場所。


「思い出したくないのに嫌なことばかり考えてちゃう。しっかりしなくちゃ……」


 いつもの自分らしくないと、唇を強く噛み締めてみる。

 薄く血が滲み出た。けれど心のざわつきはどうにも変わらない。


「ダーム、行くぞ」


「はーい」


 呼ばれ、ダームは慌ててそちらへ走って行った。



* * * * * * * * * * * * * * *



 王城へ入り込むために、まずは準備が必要だった。

 ダームが、元公爵令嬢ダーム・コールマンであると悟られぬよう、変装しなければならないのだ。


「俺とメンヒは色々用意があるから、お前はクリーガァとでも遊んでろ」


「遊ぶという言葉は心外だが、買い物に付き合おうではないか!」


 戦士は勢いよく言って、先に行ってしまう。そんな通常運転の彼を見て、小さくため息を漏らし――。


「ありがとう」と小声でダームは呟いた。


 とりあえず、店を回って帽子やらブーツやらを買い揃えたダームたち。

 早速変装準備開始だ。


「ちょっとワクワクするかも」


「私がとっておきの美人に仕立て上げよう! もっとも、ダーム嬢はそれでなくとも美しいのだが!」


 どこまでが冗談かわからないから怖い。「えへへ」とだけ笑っておく。

 さて、作業に取り掛かろう。


 ――まず、いつもはツインテールにしている輝く金髪を、背中の方へ流した。

 これだけでも大きく印象は変わる。しかしまだまだ気づかれてしまうだろう。


 その上に黒い三角帽をまぶかに被ってみた。顔が隠れ、特徴的な茶色のクリクリ瞳も見えなくなる。

 そしてブーツに中敷きを仕込み、普段より背を少し高く見せるようにした。あとは軽く長手袋などはめてしまえば完成だ。


「わあすごい」


 水面の鏡に映る自分を見て、ダームはひどく驚いた。まるですっかり別人ではないか。


「これで、誰もダーム嬢に気づくまい! ただの魔法使い、そう思うに違いないだろう!」


 クリーガァも自信たっぷりである。

 でもどうしてこんなに変装させるのがうまいのだろう?


 そう思って訊いてみると彼はニヤリと笑い、「仕事柄だ!」と言った。

 何の仕事柄なのか……。気になるがそこは寸手で我慢して。


「よし、これで大丈夫。勇者様たちと合流して、早めに王城へ行こう」



* * * * * * * * * * * * * * *



 合流した勇者たち。彼らは馬車の預かり場所について少し話をつけてきたらしい。

 それから昼食を頂くと、まもなく王城へ行くことが決定された。


 行き交う人々をかき分けるようにして王城へ向かう。かつてはここは馬車で乗り入れた道。皆が大きく避けてくれるのが当たり前だったのに、とても不思議な感覚だった。


 ――これが庶民の気持ちなんだな。


 そんなことを思っているうちに城の門まで着いていた。

 入り口を固める数人の兵士たちが、こちらあをジロリと睨む。


「貴様たちは何者だ。入りたくば名と、用件を名乗れ」


「俺はカレジャス。勇者として旅をしてる。どうしても必要な物があって、交渉にきたぜ」


 強気の姿勢でカレジャスが言い切った。

「さすが勇者様」とダームがさらに惚れたのはさておき、兵士は「王と話をつけてくる」と言って城内へ消えた。


 やがて戻ってきて、一言。


「国王陛下の許可が下りた。くれぐれも無礼のないよう、心しておくことだ」


 誰もダームには気づかなかった。

 昔なら「ダーム様」と言って歓迎されていたのに……。そう思うと胸が痛くなる。


「今は無視されるのが一番のはずなのに、あたしったらどうかしてるよ」


 ダームは己を一喝して、いよいよ城の中に足を踏み入れたのだった。



* * * * * * * * * * * * * * *



 美しい絵画や、装飾品の数々があちらこちらに並べられていた。


 メンヒはそれらに目を奪われ、ダームも初めてではないのに見入ってしまう。

 けれどカレジャスとクリーガァが先先行ってしまうので、慌てて後を追いかける。


 廊下を進み、王座の間の前までたどり着いた。

 きっとこの扉の向こうに王様がいる。そう思うと、胸の鼓動がいやに激しくなった。


「大丈夫ですか、ダーム殿。お辛そうな顔をしていますが」


「ううん全然平気。あたしのことは気にしないで」


 そして、前に出たダームが扉をノックしようとしたその瞬間。

 突然背後から声が、した。


「やあ、お客さんか。珍しい格好をしているな」


 背筋が寒気に震える感覚を、ダームは初めて味わった。

 振り返るとそこには――。


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