32:帰り着いた場所
――久々に目にする王国の姿は、ダームにとって感慨深いものがあった。
十七年暮らし、一月と少し前に追放されて本来なら二度と戻って来られなかった場所。
「おい。どうしたんだ浮かない顔して」
カレジャスがそう声をかけてくる。ダームは「うん」と言って誤魔化した。
「色々と、思うことがあってね」
大好きな故郷なのに、最後にはどうしても嫌な思い出が蘇る。
考えるだけで寒気がするようだった。
それに今、ダームは国外追放者。だから決して身分を知られてはならない。
彼女は両親に会いたくて仕方がなかった。しかしそれはいけないこと。グッと気持ちを堪えても、悔しさに涙がこぼれそうだ。
「こんな国は早く出よう。僧侶くん、目的地は」
問いかけると、メンヒは少しばかりもじもじする。
そして――言った。
「非常に申し上げにくいのですが……、伝説の鎧、その所有は王家であると有名です。昔の大魔術師が彼らに託したのだと言われていますよ」
思わず「え」となるダーム。
「今、王家って言ったよね。つまり、王様が持ってるってこと!?」
僧侶は頷き、申し訳なさそうにした。
別に彼自体を責めるつもりはない。しかしこんなのって、あまりにも理不尽すぎやしないだろうか。
帰ってきた王国、不安は募るばかりだった。
* * * * * * * * * * * * * * *
胸のもやもやが消えない。
本当ならダームは、王家の一員となるはずだった。だが王子に裏切られ、今のざまだ。
別に今に不満があるのではないが、王家に強い苦手意識を抱いているのは事実。恨みもあるし悲しみもあるし、複雑な感情をどうしたらいいのかわからない。
カレジャスたちはみんな心配して、馬車で待っておくことなどを提案してくれた。
しかしそれでは勇者パーティーの魔法使いとして失格だろう。
悩んだ挙句、結局ついて行くことにした。
カラカラカラカラ、カラカラカラカラ。
まるでダームの思いなど知らぬとでも言いたげに、馬車は軽やかに街道を駆け抜けていった。




