29:安堵の再会
クリーガァとメンヒが山小屋の中へ崩れるように入ってきたのは、それから少し後のこと。
二人とも気を失ったようだ。すっかり凍えていて、すぐに処置が必要な状態だった。
「それにしてもすげえな。こんな吹雪の中でここを見つけられるってのは」
と人ごとのように言うカレジャスを無視して、ダームは火の魔法を用いて戦士たちの雪を溶かした。
その上で体を温めてやる。すると、メンヒがうっすらと目を開けた。
「ダーム、殿……」
「気がついた? よかった。あのまま凍え死んじゃったらどうしようかって思ったよ」
身を起こし、少年は息を吐く。疲労の色は濃いものの、どうやら大丈夫そうだった。
「ご心配をおかけして申しわけありません」
「ううん、全然いいの。悪いのは勇者様なんだから」
カレジャスがムッとした顔を向けてくるが無視。ひとまずメンヒに話を聞いた。
彼とクリーガァはダームが走り出した後、やはり彼女の後を追うことにしたが、途中で完全に見失ってしまった。
吹雪に晒される中必死で探し続け、ようやくこの山小屋へ辿り着いたということ。再会できたのは偶然と言った方が正しいくらいの奇跡だ。
ともかく無事な再会をひとしきり喜んだ。しかし、
「ごめんね。あたしのせいで」
彼らを残して行ってしまったことを、ダームは深く後悔した。
「いえいえ、ダーム殿が謝るようなことでは。カレジャス殿も先ほどは失礼いたしました」
「いいや。俺が悪かったって、ダームに散々言われちまった。反省してるぜ」
でも「ごめん」と言わないところが勇者らしい。
そう言おうと思っていたダームだが、彼女はあることに気づいて思わず叫んでいた。
「今、勇者様が『ダーム』って言った! 初めてあたしの名前呼んでくれたよね!?」
驚いた顔のメンヒ。しかし彼も「ああ」と頷いた。
「確かにカレジャス殿がダーム殿を名前で呼んだところは見たことがありませんでした」
「何かあったのですか?」と問う彼に、しまったという風に顔を背けたカレジャスは一言、
「なんでもいいだろ」
思わずダームは吹き出してしまった。いや、わかりやすい。
でも彼と一歩でも心の距離が縮まったということ。それはとても嬉しかった。
ちなみに、
「ダーム殿。想いを伝えられたのですね」
「え、僧侶くん知ってたの?」
「もちろん。見てればわかりますよ」
後でこっそり、こんな会話が交わされたことも付け足しておこう。
しばらく経ち、クリーガァも無事に目を覚ました。起き上がるなりまず腕を回し軽く動いて、「大丈夫だ!」とのこと。
「まったく、カレジャスくんにはいつも困らされる! 私はそこを悪く思ってはいないが!」
「役立たずのお前に言われたかねえよ馬鹿。……ん?」
と、その時勇者が小さく声をあげ、立ち上がって歩き出した。
「どこ行くの」という声をよそに山小屋の扉を開ける。そして――。
「やっぱりだ、止みやがったぞ。見ろよ」
言われてダームも山小屋の外を見てみる。
するとそこには、勇者の言う通り吹雪の影もなく、真っ青な空が広がっていた。太陽まで眩しく輝いている。
「私が眠っている間にこんなにも晴れていたとは! 雪が溶けてきているな!」
地面に降り積もった大雪、それが徐々に溶け出しているのも見受けられる。
頷いて、カレジャスが言った。
「これならもういけるだろ。お前ら、外に出て目的地に急ぐぞ。俺たちには時間がねえんだからな」
「カレジャス殿のおっしゃる通りです。今のうちに動きましょう」
「同意だな! 私も今は気分がいい!」
「うん、了解」
各々が賛成して、荷物をまとめて山小屋を後にした。
……建物を出た瞬間、雪の重みに耐えかねて山小屋が倒壊したのは内緒の話である。




