28:気まずさと笑み
「人生で初めて告白しちゃった……」
今もなお鼓動が激しい胸を抑えながら、ダームは一人そう呟いていた。
勢いで言ってしまったが、後から思えば恥ずかしい。
勇者のどんなところが好きなのか、とか、色々言い足りないことがたくさんだ。
それに事前に何も考えていなかったことから、思ったままの言葉になってしまった。これで本当に大丈夫だっただろうか?
告白後の気まずいような、甘酸っぱいような雰囲気が山小屋の中を漂っている。
ダームもカレジャスも、互いに何も喋らない。身を寄せ合うことだけで思いを通わせているのだ。
――皆、それぞれ悩みを抱えているのだとダームは知った。
乱暴で口悪く、あまり考えなしに見えるカレジャスでも苦悩がある。それを知れてよかったとダームは思った。
頬の熱はまだ消えない。人間、こんな寒い中でも熱くなれるのかと驚くほど熱い。
と、カレジャスが突然訊いてきた。
「お前、王子とはまだやってないのかよ」
「――? やるって、何を?」
「だーかーら、その……交わることをだよ。わかるだろ? 俺生理的に別の男と戯れたやつは無理なんだよ」
何を言っているのか全然わからないとダームは首を傾げる。
「ごめん。交わるとか男と戯れるとかよくわかんないや」
「ったく。つまりお前は処女かどうかっつう話だよ。どうなんだ?」
カレジャスの目は至って真剣。しかし――。
「処女? うーん、聞いたことはあるけどそれって『綺麗な女の人』のこと?」
カレジャスの唖然とした顔は、かなりの見物であった。
* * * * * * * * * * * * * * *
箱入り娘のダームにとって、教えられたことが全て。
だから性的なことを『まだ早い』と決めつけていた母親に育てられた故、そういうことを全くと言っていいほど知らない。
本で読んだ『処女』というワードも、「綺麗な女の人のことよ」と教えられただけ。それを鵜呑みにして信じていた。
しかしカレジャスの方からしてみれば『処女』も知らない女がいるのか、という驚きがあったのだろう。
「説明めんどくせ。でも処女なのはわかったからいい」
「えっ? あたし綺麗な女の人なの? 嬉しい」
完全に勘違いしてしまっているダーム。が、カレジャスは諦めた様子で、気まずそうにまた黙り込む。
ダームとしては彼に『美人』と言われたも同然に思っているため鼻高々だった。
「もう〜。勇者様ったらあたしのことよく見てるんだから」
照れて顔を赤くし、また勇者に体をすり寄せる。
思わずフッと笑みが溢れた。




