26:遭難
「……やっと見つけた」
白い息を吐き、ダームはそう呟いて膝から地面に崩れ落ちた。
あれからどれほど探し続けただろう。
全身が凍るような寒さの中、雪が吹雪に変わり、それでも諦めなかった。
そしてようやく彼に追いついた。全身真っ白だけれど、きっと彼だとダームにはわかる。
そして、彼女は間違っていなかった。
「――お前、ついてきたのかよ」
「……うん」
「雪だるまみたいじゃねえか」と呆れたような声で言いながら、カレジャスがこちらへ近づいてくる。
そのままダームの手を掴んだ。
「仕方ねえな。来いよ」
ダームは頷き、彼の行く先へ向かった。
* * * * * * * * * * * * * * *
「着いたぜ」
やってきたのは小さな山小屋。
元々は誰かが住んでいたのだろうか。すっかり古くなり、雪に埋もれている。
「どうして山小屋があるってわかったの?」
「そんなの俺の勘に決まってんだろ。こんな降雪地帯だったら一個くらい山小屋があってもいいだろうってな。お前、炎の魔法で雪を溶かしてくれ」
先ほどからずっと、火の魔法で灯したランプを手にしているダーム。彼女はその火力を一気に強め、周りの雪を焼いた。
これなら全ての雪を焼いてなんとかなるのではと一瞬考えたが、
「でも雪がしぶとい……。かなり魔力消耗するからそれは無理だね」
魔力が大きいダームとて、無限ではない。いざという時のためにも無駄な消費は抑えたいところ。
仕方ないと無念を振り切り、ダームたちは山小屋へと入った。
「これである程度寒さは凌げるだろ」
「うん。ないよりはマシだね。ありがとう」
まだ体は激しく震えているが、雪に晒される心配がないだけずいぶんと安心だ。
ダームとカレジャスは身を寄せ合って座っている。あたりは暗く、やはり小さな炎を作り出して四隅に置いておいた。
「あたしたち、遭難しちゃったんだよね。これからどうするの?」
「雪が止むまで待つ。そのうちあいつらとも合流できるだろうよ」
ダームは驚いた。当たり前のようにクリーガァとメンヒとの合流を考えているカレジャスのその神経と、変わり身の早さに。
「じゃあさ。さっきはどうして、あんなに怒ったの? みんなでこの山小屋にくれば良かったじゃない」
思わず言葉が口から漏れる。
ダームは勇者があんなに怒ったのが不可解でならなかったのだ。
「……そうかも知れねえな。さっきは悪かったと思ってるし、あいつらに非はない。でも俺は気に入らねえんだよ、あいつらが」
やや顔を背けるようにして、カレジャスが続ける。
「嫉妬、なのかも知れねえな。前々から俺がそんなに偉い人間じゃねえことくらいわかってら。俺には大勢の兄弟がいるんだが、その中でも落ちこぼれの方だ。剣の力があったおかげで勇者になれはしたけどよ」
「うん」
「周りの兄弟が優秀だっただけに、俺はずっとどこか劣等感があったんだろうな。それで勇者として旅に出ることになって嬉しかったんだ」
「けど、」と言葉を継ぎ、
「勇者パーティーってことは、俺が一番。俺が一番偉いんだって思ってた。なのにあいつらは俺なんかよりよっぽどすごい奴らだ。結局俺はビリっけつ。これじゃ前と何も変わらねえ。俺はあいつらが、それとお前も、羨ましくて恨めしかったんだよ」
ダームは思わず吹き出してしまった。「それ、僧侶くんと同じこと言ってる」
「あぁ?」
「僧侶くんね、ここへ来る旅の途中に言ったの。できそこないなんだって。でもあたしはそうは思わないし、勇者様も一緒。みんな強くてすごいんだもん。それは見てる方がわかるよ」
不機嫌そうな顔をダームの方へ向けるカレジャス。彼は激しくかぶりを振った。
「そんなわけねえ。メンヒは人望があるけど、俺にはそんなものはねえよ。俺はいつも嫌われ者なんだ。だから追い出されて、追い出された先でも見下されてる。……これって、俺の被害妄想なのか?」
「ヒガイモウソウって何? あたし難しいことはよくわからない。でもね、一つだけ言えることがあるの」
ずっと言おうとして、胸に引っ込めていた言葉。
でも今、言ってしまおうとダームは心に決めた。
「それは――」




