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22:僧侶くんは今日も今日とて勤勉です

 ――またある日のこと。

 朝日の下、頭を深く下げお祈りしている黒髪の少年に、ダームは声をかけてみた。


「僧侶くん、おはよう」


「あっ。おはようございますダーム殿」


 声がするまでこちらに気づかなかったらしく、びっくりしたという風な顔でメンヒが挨拶を返す。


 ダームは「いい朝だね〜」などと言いながら、


「僧侶くん。今、一体何にお祈りしてたの?」


 と尋ねてみた。

 この世界で、神様的な存在はない。

 ならなぜ僧侶という職があるのか、ダームは今までずっと謎に思っていたのだ。


「木に、花に、風に、天に、地に、この世のあらゆるものへ祈りを捧げ、感謝と許しを得ているのですよ」


 メンヒの返答に大きく首を傾げるダーム。

 なぜ、そのようなものたちに感謝をしなければならないのか? それに、許しを得るという意味がいまいちわからなかった。


「詳しく説明するとですね。草木や天地は、それぞれ我々を見守ってくださっているのですよ。それらのおかげで僕たちは食事を頂き、無事に旅を続けることができるのです。もし天の恵みがなければ渇きに襲われるでしょう。もし草木の力がなければ空腹に喘ぐでしょう」


 そして少年は続ける。


「彼らに感謝し、許しを得る。許しはこの先も罪深い人間である僕らが彼らの力を借りることへのそれです。そして人間の代表として祈るのが、僧侶の職の存在理由です」


 僧侶は人間代表として、守ってくれる『彼ら』に感謝をしている。 

 なんとなくではあるがダームは理解し、感心した。


「とっても大事なお役目なんだね。僧侶くん、すごいよ」


 毎日毎日勤勉に祈り続ける姿は美しい。見た目の美しさではなく、あり方の美しさだ。

 が、メンヒは激しくかぶりを振った。


「いえ。カレジャス殿やクリーガァ殿、ダーム殿の方がよほど素晴らしい。……僕なんて、こんなことしかできないできそこないですから」


 彼の少し暗い表情を見て、ダームは思い出した。

 あの時言おうとして言えなかった言葉。それを今こそ言うべきではないのか、と。


 ダームは朝露に濡れた地面の上、メンヒの隣に座り込む。そして大きく息を吸い、話し出した。


「あのさ、僧侶くん、魔法の街でのこと覚えてる?」


「……? マジーアでのこととは?」


 メンヒは不可解だという顔をした。彼にとってあの街にはあまりいい思い出がないのかも知れない。

 そんなことを思いつつ、だが話を続行する。


「僧侶くん、自分は凡才だって、能なしなんだって言ったじゃん。でもあたしはそうは思わないなー。だって、僧侶くん頭いいもん。みんな僧侶くんのおかげで、色々助かってるんだよ」


「そんなことは……」と反論しかける彼を手で制した。ダームにはどうしても言いたいことがある。


「前の戦いの時だって、僧侶くんがいなかったら戦士さんはどうなってたかわからない。あたしも勇者様も治せなかったと思うし、そうなったら旅はしばらくお休みになってたよね。すごくすごく感謝してるの」


「だから、」と言葉を継ぎ、ダームは微笑んだ。


「認めてあげなよ。自分はすごい人間なんだって」


 ――メンヒの黒瞳に、一瞬見たことのない感情が走った。

 それが何だったのか、ダームにはわからない。でも彼は頷くと。


「ありがとうございます。……凡才の僕に、こんな優しい言葉をくださって」


「凡才とか言わないの。むしろ天才って自称してもいいんだよ?」


「いえ」と言いながら笑うメンヒ。ダームには、彼の表情が少し、ほんの少しだけ晴れやかになったように見えた。


「ダーム殿は、本当に素敵な方ですね」


「でしょでしょ? 魔法使いは、魔法みたいに元気づけることもできるの。――勤勉に頑張る僧侶くんに、幸あれ」


 ダームの綺麗な金髪と、メンヒの黒髪がそよ風に靡く。

 少年少女は寄り添い合い、暖かな朝日に照らされていた。


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