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21:戦士さんの日課

「ねえ戦士さん、何してるの?」


 ――北の国へ向かう旅の道中。

 せっせと何やら体を動かしている戦士に、ダームがそう問いかけた。


「おや、ダーム嬢! 見られてしまったか、恥ずかしいな!」


 元気よく答えたクリーガァがパッと身を起こす。


「これは筋トレというのだよ! 体を鍛え、いざという時に備える! いい考えだろう!」


 彼の両手には重そうな鎖が巻きつけられていて、足も同様だ。

 彼曰く、このようにすると筋肉が逞しくなるのだとか。ダームにはよくわからないが、強くなろうとする努力はいいことだと思った。


「そういえば戦士さんって、旅する前は何してたの?」


 ふと気になって、訊いてみた。

 すると意外な返答が。


「私の生まれ育ちか! 知りたいかね?」


「知りたい」と答えると、戦士は話してくれた。


 彼はかつて、平民の子供として生を受けたらしい。

 生活は貧しく、日々の重労働が苦しい。親もすぐに死んでしまったのだとか。

 力だけが自慢だった彼は、帝国の大会に出場することにした。賞金が手に入れられると聞いたからだ。

 そして見事優勝し、賞金を手に入れた。その時に帝国兵の一人に見込みがあると言われて、帝城へ連れて行かれ、やがて帝城の戦士となったのだとか。


「帝国は、たとえ平民であろうと力のある人間は上へ行ける! 私はそうして成り上がった人間の一人なのだよ!」


 王国では生まれが絶対だった。男爵家は子爵家より弱く、子爵家は伯爵家よりも弱い。伯爵は侯爵より、侯爵は公爵より弱い立場にある。そしてそれら全ての貴族は王の下、付き従うと定められているのだ。


 それに対して平民でも力のあるものは優秀と認められる帝国社会はなんと健全なのだろう。王国は狭いのだと、他国へやってきて知ろうとは夢にも思わなかった。


「……貴族だからって威張ってるのは、ちょっとおかしいのかもね」


「そうだな! カレジャスくんはそこがわかっていないのだろう!」


 ダームは首を傾げる。

「どうして突然勇者様の話が?」と訊いてみるも、戦士は「ああ、思い出した!」と言ってどこかへ行ってしまった。

 ダームはどこか心の引っ掛かりを覚えた。



* * * * * * * * * * * * * * *



「今日のご飯なあに?」


 テントの簡易厨房へ足を運び、ダームはそう言って顔を覗かせた。

 腹が空いて不機嫌なカレジャスに、「飯が何か訊いてこい」と言われたのである。


 振り返った大男――クリーガァは振り返らずに答えた。


「甘いパンケーキだ! 良かったらダーム嬢も手伝ってはくれまいか!」


 なんと意外なお誘い。

「でも料理なんてやったことないし……」と反論すると、


「そう難しくはない! カレジャスくんに一言伝えてから戻ってきてくれ!」


 と言われた。

 確かに一度料理はやってみたいと思っていたのでいい機会だ。ダームは駆け足でカレジャスの元へと舞い戻る。


「飯はなんだって?」


「パンケーキってやつみたい。それであたし、戦士さんと一緒に作ることになったの」


 カレジャスはギョッとした顔。「戦士と共同作業やるとろくなことにならねえからやめとけ」などと言われたが、


「大丈夫大丈夫」


 と押し切った。


「ダーム殿のお料理、食べてみたく思います」


「僧侶くん、あたし頑張るからちょっと待っててね」


 再び厨房へ。

 するとクリーガァがずらりと何やら材料を並べていた。


「準備は整えた! では始めようか!」


「うん」


 ダームはそう意気込んで料理を開始。

 だが――。


「ごめん! ああもう」


 全然うまく行かないもので、失敗ばかり。

 卵を割り損ねたり、ミルクの分量を間違えたり、焦がしてしまったり……。


 それでも戦士は、「最初はそんなものだ!」と軽く許してくれることが救い。ダームはその声に応えようと必死こいてやり続ける。


 彼の焼き方を見習いながら覚える。

 何度も何度も失敗し、そして……。


「できた!」


 ようやく、ほかほかのパンケーキが焼きあがった。


 やっと一段落。

 戦士と一緒にパンケーキをテーブルまで運び、皆に提供する。


 食べてみて彼らは、「美味しい美味しい」と口々に言ってくれた。もちろんダームへの気遣いもあるだろうが、率直に嬉しい。


「戦士さんの日課って大変なんだね」


「そうだろう! 料理だけではない! 筋トレや馬車の手入れなども私の役目だからな! しかし、私はそれらを苦には思っていない! それこそが私の生きがいとも言えるのでね!」


 人の役に立とうとする彼の姿に、ダームは感銘を受けた。


「戦士さんはすごいね。あたしも見習わなくっちゃ。明日からも料理手伝っていい?」


「もちろんだよ、ダーム嬢!」


 それからダームは、クリーガァと並んで料理作りに勤しむことになった。

 それだけではない。いざという時に備えて魔法の修練を始めたり、困っているのを見かけたらすぐ手伝ってあげるなどなど、大忙し。


 でも彼女は思う。そんな日々も、決して悪くはないのだと。


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