19:喜びも束の間……逃・げ・ろ!!!
「良かった良かった」
――そうして安堵と喜びに包まれていた、その時だ。
突然、地面が音を立てて揺れ出したのは。
「な、何この音?」
「わからねえが、嫌な予感しかしねえな」
一気に一同の緊張が高まる。
その間も地面がぐらぐらと揺れ、そして、ごとりと石壁が剥がれ落ちた。
「うわっ」メンヒが驚いて声を上げる。それからどんどんと壁が倒壊、屋根が落ち始めた。
「きゃーっ」
叫び、ダームは頭を抱えてかがみ込んだ。
どうしてこんなことになっているのか、考えられる理由は一つ。
「石竜が暴れたせいで腐った洞窟が耐えきれなくなったか。弱ったな」
轟音とともに崩れていく洞窟。ちょうど頭上へ落下した瓦礫をなんと素手で受け止めた戦士も、固い顔つきだ。
「とにかくここからの脱出が急がれる! もたもたしている猶予はない! メンヒくん、ダーム嬢、立つんだ!」
* * * * * * * * * * * * * * *
ボロボロと崩れる洞窟の中、ダームたちの脱走劇が幕を開けた。
右に左にくねる岩の道を必死に駆ける。上から次々に降ってくる岩のかけらや瓦礫はカレジャスとクリーガァが払い落としてくれた。
走る、走る、走る、走る……。
洞窟は相変わらず暗くて、ランプで照らしてもはっきりとは見えない。右と左を間違えたのかして、何度も行き止まりにぶち当たった。
そして今、かなり困難な状況にある。
とある行き止まりにて。
天井が崩れて、戻れなくなってしまったのだ。戦士と勇者が協力して破ろうとしたが、びくともしなかった。
「このまま僕たちは出られないで押し潰されるんじゃ……」
「そんなの嫌だよ。あたし、やってみる」
Ω級魔法をぶっ放したせいで魔力残量は少ない。が、一度くらいならやれるだろう。
「『アイスΓ』! 割れて――!」
天井へ向かってまっすぐに氷柱が突き立つ。氷柱はぐんぐん伸びて天井に突き当たり、それでも伸び続けて天井を破った。
「やったー!」
かなり消耗してしまったものの、脱出できたのでよしとする。
あとは浮遊魔法で外へ出て、他三人も同様に持ち上げれば完了。
洞窟の外はすっかり夕暮れで、赤い太陽が眩しく輝いていた。
「綺麗……」
「感慨に耽ってる場合じゃねえよ。あと一歩で死ぬとこだったんだからな」
確かに九死に一生を得たというやつだ。もしもダームが魔法使いでなければパーティーは壊滅していただろう。
そんなことを思い、彼女はとても鼻高々な気持ちになった。
「早く戻ろう! 洞窟の入り口ではフィーユ嬢が待っているはずだ!」
クリーガァに言われてハッと思い出した。そうだ、あの栗毛の少女がずっとダームたちの帰りを待ってくれているではないか。
今は入り口とは少し離れた場所にいる。急いで馬車に戻らなければ。
しかし、ダームにはもう歩く力がない。
「仕方ねえな。俺がおぶってやるよ」
「ありがとう勇者様。惚れちゃう」
ダームはカレジャスに背負われる。それをメンヒが生暖かい目で見ているのが少し気になるが……。
そうして戦いで疲れ切った一行が馬車へ辿り着く頃には、夕日はすっかり沈んでいた。




